Hikotaのバルサ考察ブログ

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【考察】バルサへの警鐘 アルゼンチンとメッシの歪な関係

こんにちは。今回はコパ・アメリカでのアルゼンチンについて書いていこうと思います。皆さん既にお察しかもしれませんが、今大会はもちろん日本と並んでアルゼンチンを応援していました。結局準決勝でブラジルに敗れて優勝の夢が絶たれてしまい、非常に残念な結果となってしまいましたが、皆さんは今大会のアルゼンチンに対する評価は如何だったでしょうか。本記事では今大会のアルゼンチンの闘いぶりを簡単に振り返りながら、メッシとアルゼンチンの関係、さらにはバルサへの懸念についても書いていきたいと思います。

 

▪️機能不全の4-4-2

まずはアルゼンチン代表の今大会の歩みを簡単に振り返ってみましょう。アルゼンチンは大会を4-4-2でスタートしました。グループリーグ第1戦のコロンビア戦、第2戦のパラグアイ戦はこのような布陣で挑みました(カッコ内の選手は第2戦)。

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結局この2戦は1分1敗で上手くいきませんでした。オーソドックスな4-4-2ですが、機能させるのは意外と難しいのです。特に今大会のアルゼンチンは後方からのビルドアップに大きな欠陥を抱えていましたから。ビルドアップがあまり上手くいかなかった理由は、選手の質とスカローニ監督が短時間でメカニズムを叩き込めなかったことにあるのだと思います。

で、ビルドアップが上手くいかないと前の強力2トップに良い形でボールが入らないので、必然的にメッシが中盤下がって数的優位を作っての前進を試みます。

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図はほんの一例です。実際にこのような状況があったのかは覚えていません(DAZNの視聴期限切れているので・・)。メッシがボールを下がって受けることはよく問題視されがちなのですが、実はそうでもないんです。なぜならメッシが下がることで、後方の相手を引きずり出すことができるからです。図ではアンカーがメッシのケアに回っていますが、これにより中盤に大きなスペースが生まれています。

つまり、メッシというか前線の選手が下がることが問題視されることの本質は、下がること自体ではなく、下がることで空いたスペースを襲う前線の選手の数が減ってしまうことにあります。アグエロは屈強なCB2人を相手にできるほどフィジカル的強度があるわけではありませんし。返す返す、今大会のアルゼンチンにとってディ・マリアの不調は痛かったですね。彼が3人目のアタッカーとして機能していれば、違ったと思います。

さらにこれはバルサでも同じことなので詳しくは触れませんが、ボール非保持時の守備のオーガナイズにも問題を抱えていました。メッシが守備をしない分(普段よりはしていたけどそれでも並以下)生じる齟齬を埋める努力はチームと監督に求められるところですが、かなり曖昧になっていた印象です。

 

スカローニの修正、中央密集の4-3-1-2

ボール保持時には良い形でメッシにボールを渡せず、非保持時にはメッシの守備貢献の低さで簡単に優位性を作られ、失点を喫するなど、メッシの存在が裏目に出る格好になってしまったアルゼンチン。絶対に勝たなければならない第3戦で思い切った布陣変更をします。

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4-3-1-2。メッシ、アグエロ、そしてラウタロ・マルティネスを同時起用した布陣です。点を取らなければならないということで苦肉の策だったのかもしれませんが、この変更が功を奏し、カタールを2-0で退けて何とか決勝トーナメント進出を決めました。そして準々決勝ベネズエラ戦でスカローニはベストメンバーを選び抜きます。

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それがこちら。このメンバー・布陣の特徴は以下の通りです

1、右サイドバックに本来CBのフォイス
→不安定な右サイドバックの守備の安定を図る。
2、中盤にハードワーカーのアクーニャを置く
→保持時には幅を取り、非保持時には中盤を埋める無理タスク。
3、前線にストライカー2人を配置
→メッシが自由に動けるようになる
といった感じです。グループステージの3戦を踏まえて修正すべき点を修正した格好ですね。脆かった右サイドは守備面での個人の質を上げることで対策しました。数的不利に陥りがちな中盤にはアクーニャを入れて、デパウルと共にパレデスの脇をプロテクトしました。当然それでも厳しい局面は生まれますが、アグエロラウタロがハードワークすることで埋めていました。
最も重要なのは前線のユニットでしょうか。強力な2トップが前線にいることでメッシが広範囲に動き回るようになりましたね。メッシのポジショニングは如実に変わりました。ヒートマップを確認すると、第1戦、2戦は右サイドから中央にほぼ限定されているのに対して、3戦目以降は広範囲に動き回っています。著作権がグレーなので画像は載せませんが、皆さんも是非確認してみてください。

https://www.whoscored.com/Teams/346/Show/Argentina-Argentina

メッシが前線を離れても前にストライカーが2人いるので選択肢は十分にある状況が作れています。

1人1人の負担(特にラウタロアグエロ、アクーニャ、デパウルの4人)の負担が増し、制約は増えましたが、やるべきことが明確になったため、チームから迷いがなくなったような印象を受けました。

 

■チームの安定と引き換えに失った「幅」

この布陣変更によってチームは安定し準決勝まで駒を進めましたが、セミファイナルで当たった開催国ブラジルに0-2の完敗。アンバランスな布陣のままで勝てるほどブラジルは簡単な相手ではありませんでした。大会を通じて1失点というデータが示すように、今大会のブラジルはとにかく守備が固かったですね。特に中央の4人(T・シウバ、マルキーニョス、アルトゥール、カゼミーロ)で構成される守備ユニットは非常に完成度が高く、中央は難攻不落の砦となっていました。

先述したようにアルゼンチンの新布陣は中央突破を基調とする攻撃が多いシステムです。メッシ、ラウタロアグエロの個人技とコンビネーションで中央を割って入ろうとする意図は、中央の堅いブラジルとは非常に相性が悪い戦い方でした。

「中央がダメならサイド」というのが原則ですが、前段落の図を見てもらえば分かる通り、アルゼンチンのサイドを担っているのは両サイドバックのみ。左サイドはダクリアフィコと驚異的な運動量を見せるアクーニャがユニットで崩そうと試みていましたが、クオリティ不足は否めず。右サイドはフォイスがほとんど上がらない上に、デ・パウルはアクーニャが動く分、中央に留まることが多く、攻撃面ではほとんど機能していませんでした。現に、ブラジルのSBが対応に手を焼いているシーンはほとんどありませんでした。

組織化された現代サッカーで「幅」を使うことの重要性は以前のセルジ・ロベルトの記事で述べた通りです。中央を固めている相手を中央から崩す作業は本当に困難を極めます。しつこいようですが、今大会のアルゼンチンにとってサイドのレーンで異彩を放つことができるディ・マリアの不調は非常に大きかったです。彼の代役がいないのはチーム編成上問題かもしれませんが・・・。

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■メッシシステムの難しさ

改めて今回メッシシステムを構築する難しさを感じさせられました。メッシの守備の穴を埋め、メッシにできるだけ良い形でボールを渡す。口で言うのは単純ですが、実行する選手や監督からすると悩ましい問題になってしまっています。

メッシの大ファンとしてはあまりこういうことは言いたくないのですが、今大会のメッシがこのような特別扱いに値したかどうかは正直疑問です。もちろんチームの責任が大きいところはあるのですが、ドリブルやパスが引っかかったり、らしくないシュートミスがあるなど、決してトップフォームとは言い難いパフォーマンスでした。

メッシシステムを構築する理由は、それを構築するリスクやデメリットを上回る価値をメッシがもたらすことができるからです。そしてその前提条件が崩れるのであれば、メッシシステムは残念ながらチームの足かせにしかなりません。お世辞にも今のアルゼンチンは世界トップクラスの強豪とは呼べません。選手の質しかり、監督の戦術しかり。リスクを抱えながらプレーできるほど成熟したチームではなかったのが実情です。

タレント力を失ったアルゼンチンにとってメッシは最大の武器でもあり、広告塔でもあります。しかし、それと同時にピッチ内で大きな問題になり得るという点は認識しておく必要がありそうです。前評判、初戦のコロンビア戦の出来を念頭に置くと、準決勝進出は上出来だったと思います。しかしメッシのいるうちに代表タイトルが欲しいのであれば、早急な組織の確立が求められるでしょう。


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 ↑詳しくは過去記事を是非!

 

グリーズマン獲得で・・

アルゼンチンの苦悩はバルサにとって決して他人事ではありません。メッシは今年で32歳になりました。残念ながら彼も人間なのでフィジカル面ではここから衰えが隠せなくなる一方でしょう。既にバルサでもその兆候は見られており、交わせたはずのドリブルが引っかかることも珍しいものではなくなっています。

バルサには一応メッシを活かすメカニズムを心得ている選手たちがいて、バルベルデもメッシを活かすことを念頭に置いた戦術を志向していますが、今後メッシが衰えていくにつれて、ジレンマは積みあがっていくいくでしょう。メッシの能力が下がるということはチームがメッシのために犠牲になる価値も下がっていくということと同義です。

ところで、今グリーズマンの獲得オペレーションが進行しています。実現するかは定かではありませんが、もし獲得が決まればこのようなシステムになるのではないでしょうか。

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いや、今大会のアルゼンチンとほぼ一緒じゃん!って感じですよね笑。グリーズマンやメッシを右サイドにすればいいじゃんという声も聞こえてきそうですが、結局両者とも中に入ってくると思うので、実質このような形になるのではないでしょうか。両インサイドハーフ(図ではラキティッチとフレンキ―)には広大なスペースのカバーリングが要求され、SBはサイドのレーンを1人でカバーすることを余儀なくされます。

来シーズンのSBにはセメドがファーストチョイスで使われるという報道も出ていました。守備力とスピードを高水準で備えるセメドですが、ボール保持時の挙動はまだ物足りないところがあります。今大会のアルゼンチンのように右サイドからの崩しがほとんどないという状況は十分想定できます。

グリーズマンが来ないにしても、この傾向は昨シーズンから続いており、CLリバプール戦では右サイドバックのセルジ・ロベルトをほとんど上がらせず、攻め筋を中央から左サイドに限定しました。グリーズマンが実際に来れば、崩しを中央突破と左サイドのジョルディ・アルバの攻め上がりに頼る傾向はますます強くなるでしょう。

グリーズマンは非常に守備貢献度の高いアタッカーですが、保持時はストライカー、非保持時はサイドハーフや中盤の位置まで下がっての守備を要求するのは酷です(結局やらされることにはなりますが・・)。結果として中盤に過負荷がかかり、再びラキティッチビダルに頼らなければならない状況が生まれるのではないでしょうか。

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■メッシシステムはいつまで続く?

コパ・アメリカでのメッシは非常に気持ちが入っていたように見受けられました。チームを鼓舞し、チームのために闘い、相手に猛然とプレッシャーをかける姿には非常に感銘を受けました。メディアに向けても(問題視されるほど)強いメッセージを送る姿にはチームのリーダーとしての成長を感じずにはいられませんでした。

しかしメッシに求められているのは並の貢献ではありません。メッシは常に「メッシとしての大活躍」、結果と違いを生み出すことを求められています。それはメッシへの期待ゆえ、ではなく、チームが払っている犠牲ゆえです。

改めてバルサは考えなければなりません。いつまでメッシのためのサッカーを続けるのか。個人的にはメッシシステムの継続はやむなしと考えていましたが、コパでのアルゼンチン、グリーズマンネイマールの獲得報道を見て心が揺らぎつつあります・・。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

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