Hikotaのバルサ考察ブログ

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【考察】セティエンバルサを読み解く其の漆 新システム4-3-1-2導入の理由を考える

こんにちは!今回はセティエンバルサを読み解く第7弾。もうこのシリーズも7記事目ですか。セティエンが就任したのが1月なので大体月1ペースです。前回はこんな記事を書きましたので、まだの方は是非!

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さて、今回はセティエンが中断明けの試合で使用した4-3-1-2という新しいシステムについて書いていきたいと思います。諸々の経緯を整理しながら書いていきます。それでは!

 

■4-3-1-2導入の経緯は?

セティエンが中断明けの試合で4-3-1-2を使用したのは3試合。33〜35節のアトレティコ戦、ビジャレアル戦、エスパニョール戦でこのシステムは使われました。厳密に言うと、中断前の23節ベティス戦でもこのシステムは使用されていますが、それは一旦脇に置いておきましょう。36節バジャドリード戦に関しては、各データサイトは4-3-1-2と表記していましたが、個人的にはセルジ・ロベルトを右CBに落とした3-1-4-2だったと解釈しています。

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3試合の選手起用はこんな感じ

4-3-1-2が導入された試合の選手起用はこんな感じでした。4バックは基本的に固定。途中からセルジ・ロベルトが右SBにポジションチェンジするくらいです。インサイドハーフはセルジ・ロベルト、ビダルラキティッチの中から2人をチョイス。前線の3枚はメッシ&スアレスは確定で残りの1枚はリキまたはグリーズマンといった起用になります。

さて、この4-3-1-2は優勝争いに向けた大一番、アトレティコとの1戦でお披露目となったわけですが、まずはなぜこのシステムを導入するに至ったのか整理していきたいところです。この4-3-1-2を語る上で、触れなければならない選手がいます。

リキ・プッチ。再開後最も出場機会を伸ばした選手の1人です。この選手の台頭と、4-3-1-2の導入は密接に結びついていると僕は考えています。

バルベルデが監督をやっていた今季前半戦は1分たりともプレーできなかったリキですが、セティエンの就任初陣で途中出場。決勝点に繋がる見事なボール奪取でチームの勝利に貢献したのです。続く国王杯イビサ戦では先発出場。ここから一気にポジション確保の期待もあったのですが、好パフォーマンスを見せることはできず。

結局リキがイビサ戦以降、3月の中断までにリーグ戦で出場したのはレバンテ戦(しかも僅か3分!)のみ。セティエンは3月のSPORTのインタビューでリキの課題についてこのように語っています。

「(リキ・プッチには)改善しなくてはならないことがいくつかある。サッカーは複雑化して行っており、良い選手であるだけでは足りない。前方に向けての突破力も必要だが、守備能力や頑張り、そして状況を読む力も必要だ」

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恐らくバルベルデがリキを起用しなかった理由もここにあるのだと思いますし、そもそもバルサの中盤は選手層が厚いですからね。もしコロナウイルスによる中断がなければ、リキは満足な出場機会を得ることなく、19-20シーズンを終えていたかもしれません。

リキの課題というか、トップチームになかなか上がれなかった理由は今シーズンの頭に記事を僕も書いているので、是非こちらも。

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しかし、長い中断による週2試合ペースの超過密日程。さらには再開後初戦のマジョルカ戦でのフレンキーの負傷、まさかのアルトゥールの移籍決定、そして右SBと中盤をこなすセルジ・ロベルトの負傷離脱という事情に事情が重なり、突如としてバルサの中盤は人手不足となったわけです。

リキは29節レガネス戦から31節ビルバオ戦まで3試合連続で途中出場を果たすと、32節セルタ戦で遂に今季初先発を飾ります。リキは4-3-3の左インテリオールで出場。特にボール保持時の挙動が素晴らしく、初先発にも関わらず、積極的にボールを引き出し、チャンスメイクに勤しんでいました。技術、ポジショニングは流石の一言です。

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しかし、一方で、やはり気になったのはボール非保持時。先ほどリキの守備面での課題を指摘したセティエンのコメントを紹介しましたが、リキは決して守備が下手な選手ではありません。むしろ、スピードと思い切りの良さを活かした「ボールを奪いに行く守備」は得意なのです。セルタ戦でも積極的に奪いに行く姿勢を見せていました。

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リキは奪いに行くけれど

このように積極的に最終ラインにプレッシャーをかけていくのですが、その分リキの後方のスペースが空いてしまいます。リキの動きに全体が連動して動き、前でボールを奪いにいければそれがベストなのですが、今のバルサでは諸々の事情があり、それが難しくなってしまっています。特にメッシ・スアレスの守備貢献の低さが問題なのですが。

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今のバルサでは基本的に左インテリオールの選手は、ボール非保持時は4-4-2の中盤の「4」の左ボランチに下がってスペースを埋める作業が求められます。しかしリキは攻め込まれても高い位置をキープしていることが多く、その分ブスケツの左横、ウムティティの前方にはスペースができてしまっているケースが多かったように思われます。つまり「スペースを埋める守備」には現時点で課題があると言わざるを得ないのです。

余談ですが、この試合はウムティティのパフォーマンスに批判が集まりました。そもそもコンディションが万全ではなかったのが、主因だと思いますが、盤面的にかなり苦しい状況に追い込まれていたことはここで言及しておきたいと思います。良いときの彼ならこの状況も独力でなんとかしていたかもしれませんが。

話を元に戻すと、リキの急な重用はセティエンの彼への評価が急激に上がったわけではなく、状況的に使わざるを得なかったという解釈の方が正しいのではないでしょうか。つまりこの時点でリキの守備面での課題がセティエンの中でクリアになったわけではなく、そこには目を瞑りながら起用したということですね。

結局、セルタ戦は2-2の引き分けに終わってしまいます。次節はアトレティコとの大一番。もう勝ち点を落とすことのできないセティエンには修正が求められたわけです。

 

■解決策

もう1つ、セティエンには悩ましい問題がありました。それはグリーズマンの低パフォーマンス。バルベルデ時代はリーグ戦で7ゴールを挙げていた彼ですが、セティエンが就任してからは、 この時点で僅か1ゴールしか挙げられていなかったのです。これはセティエンの就任時にも危惧しましたが、彼がセティエンの哲学とマッチしていないのは明らかでした。

17歳のアンスは慎重に使いたいでしょうし、ブライスワイトはそもそものパフォーマンスレベルが足りていないという判断で、アトレティコ戦での4-3-3は断念。代わりに使用されたのが4-3-1-2だったというわけです。セティエンは再開前もクラシコやCLナポリ戦では中盤の選手を4人起用しており、勝負所でまたしても中盤を4人起用してきた格好です。

4-3-1-2ではリキをはっきりとしたトップ下として置くことで、守備面での負担を軽減。リキはダブルボランチのどちらかにプレッシャーをかけ、後方に戻る必要はありません。後方はインサイドハーフの2枚が頑張ってスライドして対応をします。まさにリキ仕様のフォーメーションだと言えるでしょう。

これでリキ個人で見れば、タスクが整理されたたわけですが、一方で後方は大変です。

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サイドのスライドが間に合わない現象が・・

これまでは中盤の横幅は4人で守ってきました。しかし、このシステムでは3枚がスライドして対応しなけばなりません。ビダルラキティッチバルサの選手の中では守備範囲が広い部類ですが、それでも限界はありました。特に相手のSBがフリーになりやすく、サイドで数的優位を作られやすくなるのです。

このアトレティコ戦では、アトレティコのロングカウンターにビダルのスライドが間に合わず、右SBのセメドが左SBロディに釣りだされ、その裏のスペースに走りこんだカラスコがCBのピケをサイドの広いスペースに誘い出し、1対1で突破。結果PKを献上し、同点弾を許したのです。

もちろんバルサに守備面で個人能力の高いカゼミーロやカンテのような化け物がいれば話は別ですが、バルサにそこまで「無理が利く」選手はいません。またメッシやスアレスが頑張ってSBを追いかけることもできないので、この状況で守り切れ!というのはちょっと酷なような気はします。

結局アトレティコ戦は2-2で終わります。ここで勝ち点を落としたことがマドリ―の優勝を決定的なものにしたわけです。

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■思わぬ副産物も

アトレティコ戦では結果が出なかったものの、続くビジャレアル戦でも4-3-1-2を使いました。ただし、この試合ではリキはベンチスタートに。代わりに不調に喘ぐグリーズマンが2トップの一角を占めます。トップ下はメッシが務めました。

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このビジャレアル戦は4-3-1-2がハマります。特に恩恵を受けたのはグリーズマン。4-3-3の時と比べるとメッシ、スアレスと近い距離でプレーすることができ、やり易そうにプレーしていました。グリーズマンは少ないタッチ数で周囲と関わるプレーが得意ですから、メッシ、スアレスとの距離感はやはり重要なわけです。

ちなみにボール非保持時は、メッシが2トップの位置、グリーズマンがトップ下へと移ります。非保持時のタスクは基本的にアトレティコ戦でのリキと同一です。4-3-3の左ウイングで起用された際は、4-4-2の左サイドハーフに下がらなければならないので、それと比べると守備負担は軽く見えました。

前にグリーズマンーメッシースアレスのトライアングルが残る形なので、ボール奪取→カウンターへの移行もスムーズです。このトライアングル+インサイドハーフとSBも攻撃に関わってくるので、厚みのある攻撃を見ることができました。本来、グリーズマンを活かすために始めた4-3-1-2ではなかったとは思いますが、思わぬ収穫となりましたね。

結果ビジャレアル戦は4-1の快勝。アトレティコ戦の落胆から少し希望が見えた形となりました。

しかし、続くエスパニョール戦では大苦戦。中央を固めたエスパニョールに対して中央密集型の4-3-1-2は相性が悪く、エスパニョールのゴール前は殆ど攻略できず。むしろ、SBが上がった裏のスペースを突かれ、失点のピンチすら招きました。バルサに決勝点が生まれたのは後半に両チームに退場者が出て、スペースが出来てからの話でした。

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結局、36節からはこの4-3-1-2は封印。36節は3-5-2、37節、38節は4-3-3で戦いました。

 

■本格導入はあり?なし?

結局3試合試して上手くいったのはビジャレアル戦だけでした。そのビジャレアルにしても、再開後無敗の絶好調だったため、特別なバルサ対策を敷いて来なかった印象があります。

どうしても中央密集型のフォーメーションなので、攻撃は中央に偏ってしまいます。ビジャレアルくらい真っ向から来てくれる相手ならスペースを有効活用できますが、アトレティコエスパニョールのように中央を固めてくるチームに対しては思う壺な攻撃に終始してしまいます。

4-3-1-2ではサイドプレーヤーはSBのみです。そのため、両SBが必ず高い位置を取る必要があるのですが、その分、彼らの裏のスペースが大きな弱点となります。バルベルデ時代もSBは高い位置を取っていましたが、その分、インテリオールが低い位置を取り、SBの裏側のスペースをカバーする仕組みができていました。

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バルベルデ時代ボール保持時配置

一方、セティエンになってからはメッシが頻繁に中盤に下がり、それと入れ替わるようにインテリオールが前のスペースへ繰り出すことが多くなっています。その分サイドバック裏を突かれるカウンターに対するマネジメントの弱さはやはり垣間見えます。

さらに繰り返しになりますが、バルサの2トップは守備の部分での貢献度が弱く、サイドでの守備の局面でこちらのSBと相手のSB・SH(WG)で数的不利に陥ることになります。バルサのレギュラーCBのピケとラングレはスピードに乏しく、サイドに釣りだされば、対応はどうしても後手に回ってしまいます。

現状、僕の中では4-3-1-2は「リキやグリーズマンを起用する上で都合のいい形」という域を出ません。まだ3試合しか見ていないので、もう少し見ないとちゃんとは判断できませんが、3試合で方向転換した辺り、セティエンもこの4-3-1-2には確証が持てなかったのでしょう。

少なくとも4-3-1-2がこのチームの基本フォーメーションになることはないかと思います。オプションとしては残すかもしれません。今個人的にリキよりも期待度が高いアンス・ファティの定位置であるウイングがなくなってしまいますから、好きではないという私情ももちろんありますけどね笑。

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となるとリキやグリーズマンはどのようにチームに組み込んでいくのか?というのはまた別の機会に書ければなと思います。

感想お待ちしています。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。