こんにちは。お久しぶりです。
ここ数日のメッシ移籍報道に多大なるダメージを受け、しばらく記事を書く気のなかった僕ですが、流石にこの選手について書かないわけにはいきません。
イバン・ラキティッチ。2020年9月1日、古巣セビージャへの移籍が決定しました。
今回はラキティッチのバルサでの6シーズンを振り返りながら、彼への評価を綴っていきたいと思います。
■最高のバランサーとして君臨
ここ10数年で最も素晴らしい補強だったのではないでしょうか。2014年にセビージャから1800万€と破格の値段で加入したラキティッチ。セビージャでの絶対的な地位を捨ててのバルセロナ挑戦でした。以降、極めて重要なレギュラーとして君臨。ルイス・エンリケ、エルネスト・バルベルデ両指揮官でのタイトル獲得には不可欠な存在でした。
加入以降リーグ戦で毎シーズン30試合以上に出場。ラキティッチがバルセロナというクラブでここまで重要な存在となり得たのは、リオネル・メッシというクラブ史上最高の選手を抱えるチームのバランサーとして適任だったからです。
2014年のルイス・スアレスの獲得により、メッシのポジションは従来のセンターから右サイドへと移行しました。時のルイス・エンリケ監督は慢性的な負傷を抱えていたシャビ・エルナンデスの出場機会を制限し、ラキティッチをメッシの背後の右インテリオールとして起用。以来、ラキティッチはメッシをサポートし、背後のスペースを埋め、彼の攻撃面での能力を最大化するための汚れ役に徹したのです。
ラキティッチは基本技術に優れ、特にロングキックの質とミドルシュートの威力には定評がありました。しかし、バルサでより重宝されたのは、高い負荷にも負傷なしで耐えうる強靭なフィジカルと、汚れ役を演じ切る崇高な自己犠牲の精神でした。メッシのために走ることを厭わない。それでいて水準以上の攻撃性能も有する。まさにメッシの背後を任せるに相応しいタイプの選手でした。
ボール保持時はメッシや高い位置を取るSBの後方でサポートの位置を取りながら、広大なスペースをプロテクト。チャンスがあれば、インナーラップを試みて攻撃参加をすることも。ボール非保持時はメッシが帰ってこない右サイドの守備を担当。中央のスペースを埋めながら上手く相手のSBのプレー選択を狭めるタスクを担ったのです。
2017年にバルベルデへ指揮権が移ってもラキティッチの存在感は変わらず。ネイマールを失ったチームにバランスを求めたバルベルデは、ラキティッチをブスケツの真横に配置。ルイス・エンリケ時代に広いスペースを守ることを強いられ、疲労困憊だったブスケツの補佐役としてさらに重要なタスクを与えられたのです。
さらにはブスケツ不在時にはアンカーのポジションも務め上げるなど、プレーの幅も広げました。恐らく18-19シーズンはバルベルデの中でブスケツより重要な選手だったはず。セビージャ時代は攻撃的なMFだったことを考えると、ものすごい変容ですね。
この辺の話は以下の記事に詳しく書いてあるので、よろしければ。
戦術的に非常に重要な存在であったのと同時に、印象的なゴールが多かったのもこの選手の特徴でした。14-15シーズンCL決勝での先制ゴールは勿論のこと、クラシコでの決勝ゴールやCLトッテナム戦でのスーパーボレーなどなど。タスクが多い中でもゴール前に顔を出して、点を奪う姿はまさに鉄人そのものでした。
■「理想的」ではないけれど「必要」
これだけ貢献度の高かったラキティッチですが、残念ながらその貢献に見合う評価を得られたとは言い難いバルセロナでのキャリアでした。ジョゼ・モウリーニョが以前述べていたように彼は「過少評価」されてきました。
端的に言ってしまえば、ラキティッチはバルサの「DNA」が好むタイプの中盤の選手ではありません。技術自体は高いものの、狭いスぺ―スで息ができるほどの繊細さは持ち合わせておらず、またトップレベルの選手たちと比べると認知が弱く、単独でプレスを外すレパートリーがないため、強烈なハイプレスに弱いという明確な弱点を持っていました。プレービジョンという観点で言えば、シャビやイニエスタ、ブスケツには決して及びません。
彼のこの弱点が露骨に出てしまったのが昨季のリバプール戦2ndレグで、彼のパスミスが2失点目を誘発してしまったのです。その当時のラキティッチには批判が殺到。その時に限った話ではありませんが、ラキティッチ本人やバルサ公式のTwitterアカウントには退団を求めるリプライが相次いでいました。
しかしながら、選手の悪い部分に目を向け、その部分だけをあげつらって批判するのはあまりに短絡的です。バルサの中盤像から言うと、ラキティッチはシャビには決して及ばないレベルの選手ですが、その一方でシャビには決してできなかったことをやってのける選手でもあります。
例えば、メッシの背後を守るのがセスク・ファブレガスやアルトゥールだったとして、果たしてチームはバランスを保てていたでしょうか。
今のバルサは「通常の」状態ではありません。世界最高の選手を活かし、その弊害をカバーする。それがメッシやクリスティアーノ・ロナウドを保有するチームに与えられる枷であり、現代サッカーでは極めて特殊なチーム状況なのです。
その状況の中で、より求められたのはコントローラーではなく、バランサーだったというだけの話です。これはシャビのような選手が要らないというわけではなく、優先度の問題です。少なくともチームの中盤の選手にはラキティッチ的な能力が求められたのだということです。
その背景も理解せずに、ラキティッチ本人に届く形で非難の声を浴びせる海外のクレには本当に閉口してしまいます。そのくせ、理想のフォーメーションにネイマールをいれ、4-2-4のようなフォーメーションを望んでしまうわけですから救いようがありません。
ラキティッチに対する評価が十分でなかったのはフロントも同じです。2019年夏、フロントはラキティッチを売りに出しました。最終的にはネイマールとのトレード要因としてPSGへの放出をクラブは検討していたようです。
「世代交代」と言えば聞こえはいいですが、ではラキティッチ抜きでフロントはどのようにチームを成り立たせるプランだったのでしょうか。依然として守備貢献度が低く走れないスアレスをメッシと並ぶエースとして据えているにも関わらず、その尻を拭い続けてきたラキティッチから先に切ろうとするのはどうしても納得感がありません。
チームの構造が変わっていないのなら、それを成り立たせてきた選手はそのまま必要な選手であるはず。もしラキティッチを売りに出したいのであれば、ラキティッチのような選手がいなくても成立するようなチーム作りに着手していなけばなりません。あるいはラキティッチに代わるような選手を獲得するか。
ラキティッチに代えてネイマールを迎え入れようとしていたあたり、そういう計画はなかったように思われますが。
移籍を拒んだラキティッチは案の定、19-20シーズンの序盤戦は冷遇されます。最終的にチームの重要な存在として戻ってきた彼のプロ意識は流石でしたが、この一連の扱いは本当に残念でした。
ファンからは、メディアを介してのクラブ批判や、アンフィールドでの敗退の一週間後にセビージャで開催された祭りに出席するなどのピッチ外の行動も批判されていました。
個人的には、こういうのは勿体ないなと思う一方、選手のピッチ外での活動には殆ど興味がありません。フットボーラーはピッチの中でその価値を示すもの。ラキティッチがバルサのために全力を尽くしてきたことはピッチ内でのパフォーマンスから明らかです。少なくともそれに対して最低限の敬意は払われるべきだと思います。
■メッシあっての
メッシシステムを成り立たせてきた選手が、そのメッシの退団報道が出ている最中にクラブを去るというのは何か運命的なものを感じます。メッシあってのラキティッチであったし、ラキティッチあってのメッシ。この6年間はそういうふうに形容できるのかなと思います。
メッシの去就がどうなるのかは未だ不明ですが、やっぱりこの2人はセットなんだなと思うと、本当に何とも言えない気持ちになります。
ただ、退団に関しては正直既定路線だったと思いますし、本人も愛を公言して憚らないセビージャへ戻れて幸せなのではないでしょうか。少なくとも僕自身はこの移籍に関して寂しさはあれど、ネガティブな気持ちは殆どありません。
クラブからすると1年前に放出しておけば移籍金が回収できたのに…!という思いが強いかもしれませんが、結局のところ最終的にはラキティッチは19-20シーズンも必要な選手だったと思います。特に中断明けはハイパフォーマンスでしたし。
僕個人の思い出を少し語ると、加入当初はやはり「シャビの足元にも及ばない中盤の選手」というふうに評価していました笑。なぜ、この選手が重宝されているんだと。しかし、試合を見るにつれてラキティッチの隠れた貢献、見えない働きに気付くようになったのです。
僕がバルサを応援し始めたのが08-09シーズンからだったので、ラキティッチは僕にとって初めての外様のレギュラーMFでした。当時、シャビイニ信者だった僕に新しい評価軸を与えてくれたのは間違いなく彼だったと思います。ラキティッチを見る中でちょっとサッカーを見る目が変わったなという感覚さえあります。
批判を浴び続けても、厳しいタスクを黙々とこなし、時折ビューティフルゴールを決める姿は忘れられません。近年のバルサはラキティッチなしでは成り立ちませんでした。勿論他の選手に対するのと同じく、腹が立つこともあったけども、彼の貢献度は計り知れません。
6年間、ありがとうございました。セビージャでの活躍、心から祈っています。バルサ戦ではお手柔らかに笑
最後までお読みいただきありがとうございました。