Hikotaのバルサ考察ブログ

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【コラム】さらば、ウスマン・デンベレ 6年間の総括

記録よりも記憶に残る選手。

スポーツ界ではそう呼ばれる選手がいる。彼らの功績はタイトルやスタッツには表れないが、そのプレーや人柄で人々を魅了し、いつまでもその心に残り続けるというニュアンスである。

バルセロナをこれから退団するウスマン・デンベレもその類の選手である。

フルスプリントでなくても軽々ディフェンダーを置き去りにする圧倒的なスピード。完全な両利きに近い存在であり左右両方の足を自在に扱って繰り出すドリブル。しなやかな足の振りから放つ強烈なファーサイドへのシュート。そして誰よりも深い切り返し。

しかし、彼を記憶に残る選手たらしめているのはその能力やプレーではない。象徴的な珍エピソードである。10年後、デンベレのプレーは忘れられても彼が起こした事件の数々は人々の記憶に残り続けるだろう。

ドルトムント時代に、練習中にソックスにスマートフォンを忍ばせポケモンGOをプレイしていたという珍事件を皮切りに、デンベレは定期的に珍エピソードを生み出し続け、その度に世界中のクレを沸かせてきた。

まずはそのエピソードをいくつか紹介しよう。

 

デンベレ珍エピソード集

度重なる練習への遅刻

とにかく寝坊が多い。2時間練習に遅刻したこともある。クラブは遅刻防止のために携帯電話の電源を切ることを禁止したとかしてないとか。原因は夜遅くまでのゲーム。小学生か?当時彼が遅刻する度に、黒人が焦って疾走する動画が出回り、あまりの足の速さから本人なのでは?と囁かれた。

伝説のクラシコでの50メートル走

18-19シーズンのクラシコ。テアシュテーゲンがボールをキャッチした瞬間、突然前方へ猛ダッシュ。しかし、振り返ることなくボールに背を向けて脳死で突っ走ったため、テアシュテーゲンが放ったボールの遥か先を行き、ただ50メートル走っただけの人になる。到底ボールを受けるつもりだったとは思えないのだが、あの時何を考えながら走っていたのだろうか。

リバプール戦での決定機逸

18-19シーズンCL準決勝1stレグリバプール戦、3点リードの後半ロスタイムのシーン。ロングカウンターからリオネル・メッシが相手DFを引きつけ切って、途中出場したゴール前のデンベレへパスしてキーパーとの1対1。ダメ押しの4点目を奪う大チャンスだったが、デンベレの放ったボールはなぜか緩やかにアリソンの両手に吸い込まれてしまいタイムアップ。

この瞬間全員がずっこける。流石のメッシもピッチに倒れこんだが、そのメッシに平気な顔をして手を貸してピッチから引き起こす度量の大きさを見せた。ちなみにバルセロナは翌週の2ndレグに0-4で敗戦し、世紀の大逆転負けを喫することになる。

当のデンベレはというと、その前の消化試合のセルタ戦で負傷し、2ndレグはお休みしたというオチがついた。

デンベレ行方不明事件

19-20シーズンの開幕戦。デンベレは先発フル出場を果たすも試合中に負傷。翌日にメディカルチェックが予定された。しかし、予定されていた時間にデンベレが現れない。何と無断で母国に帰ってしまったのだ。

デンベレはこの1ヶ月後に怪我から復帰を果たしたものの、その後長期離脱。このシーズンの公式戦出場は僅か9試合。あの時メディカルチェックを予定通り受けていればその後の負傷は防げたのかどうかは分からないが、その当時のデンベレの体調管理はその程度のプロ意識であったことと報連相ができないことがこのエピソードから窺い知れる。

マテウ・ラオスからのレッドカード

そんなわけで19-20シーズンはほぼ稼働しなかったデンベレであるが、出場機会の少ない中でしっかりと爪痕を残すことになる。出場したセビージャ戦で判定に不満を持ったデンベレはスペインの名物審判に暴言を吐き1発レッド。その際チームのキャプテンのリオネル・メッシから「彼はスペイン語が話せない」というややディスり気味の擁護を受ける。ちなみに退場時チームは4-0で勝っていたので、決して怒るような局面でなかったことは注釈しておきたい。

日本人人種差別事件

デンベレはアホだけど愛すべきいい奴、という評価を綺麗に覆していったのがこのエピソード。覆したのは「アホ」の方でなく、「愛すべきいい奴」である。2019年にツアーで日本を訪れた際のゲームのイベントで、日本人スタッフに対してフランス語で人種差別発言を行い、その際の動画が1年半後に流出し炎上。

「醜い顔ばかりだ」「後進国の言葉」などと擁護するのがなかなか難しい発言を連発。個人的には発言そのものよりも、この動画を回して流出させた危機意識の低さの方が気になるところ。ちなみに被害をより受けたのはデンベレではなく、その時一緒にいてKONAMIとのスポンサー契約を解除されたグリーズマンだったりする。

契約延長発表動画

2022年夏、契約が切れて一旦フリートランスファーになったデンベレバルサとの2年間の契約延長に応じた。その際のバルサ公式からリリースされた発表動画があまりに貧相だと話題に。とにかく見てほしいのだが、世界的ビッグクラブとは思えない出来なのである。勿論これはデンベレ側に咎はないが、面白いので載せておく。クラブの広報も「デンベレだからこんなんでいいか」くらいで録ったのだろうか。

W杯決勝

2022年カタールW杯決勝。デンベレはフランス代表の一員としてスターティングメンバーに名を連ねる。しかし、ここで大ブレーキ。ボールを持てばロストを繰り返し、自陣ボックス内で不用意に足を出してPKを献上。ABEMA解説を担当した本田圭佑からは「デンベレ代えろ!」と言われる始末。散々な出来で前半41分にベンチに下げられるという屈辱を味わう。結果、メッシ率いるアルゼンチンがW杯を勝ち取り、「デンベレが最もクレに貢献した瞬間」とされしばらくクレのネタになった。

デンベレはメンタル強そうなタイプに見えるが実は大一番に弱いのが特徴である。運も悪い。日頃の行いだろう。

 

いかがだろうか。振り返るとどうしようもない問題児というよりポンコツと称した方が適切かもしれない。

このようなエピソードでデンベレには本当に楽しませてもらった。デンベレには不思議と怒る気になれないから本当に不思議である。腹を立てたら負けというか、怒るだけエネルギーの無駄と思わせるようなそんな力がある。

 

バルトメウ政権負の象徴として

さて、真面目なパートに移る。楽しませてはもらったが、結局のところ我々バルサのファンがデンベレに満足したことは6年間で1度もなかった。デンベレへの約150億円もの投資は大失敗だったと言わざるを得ない。

言葉を選ばずに言えば、デンベレは前会長であるバルトメウ政権の負の歴史の象徴的な選手である。2017年、メッシ後のブラウグラナを背負う存在になるはずだったネイマールが突然バルサを退団し、代わりに欧州で1年活躍しただけのポケモンGOプレーヤーを天文学的な移籍金で購入した時点で、バルセロナのその後の運命は決定づけられた。

いや、バルトメウ会長政権下における場当たり的な強化戦略はそれ以前にもあった。デンベレ獲得は不幸への引き金を引いたというより、MSNが覆い隠していたバルトメウ政権の杜撰なタレントビジネスの負の面を強く露見させる出来事であったと言えるだろう。

同じく高額投資失敗組のコウチーニョグリーズマンは年齢が高かったため、失敗とみなすやいなや2シーズンで売却する形になったが、デンベレは将来性も加味した投資の色が強く、最初の2,3シーズンが全くの不発でも我慢して6年間お付き合いすることになったという事情もある。

デンベレ獲得が失敗であったと断ずるのは稼働率の低さと大一番での頼りなさである。

6シーズンで185試合出場40ゴール43アシスト。1シーズン当たりの公式戦が50試合だと仮定すると、6シーズンでクラブは合計300試合を消化する。そうなると、デンベレは加入以来約40%もの試合を欠場したことになる。クラブ史上最もお金を投資して獲得した選手の稼働率としては許容しがたいものがある。

勿論、本人もしたくて怪我をしているわけではないが、これまでのエピソードから彼のプロ意識が欠けていたのは間違いないことであるし、パーソナリティに問題があるのはポケモンGOのくだりで我々一般のファンレベルにまで伝わってきていたわけだ。なのでまあ本当に「案の定」という言葉が似つかわしい結果に着地した形になる。

稼働率が低くても出れば必ず結果を出す、みたいな選手もなかにはいる。バイエルン時代のアリエン・ロッベンのように。しかし、デンベレが残した数字は過去の選手たちと比べてお世辞にも求められる水準を満たしたとは言い難い。出たら出たらで微妙なのだ。

FCバルセロナ近年20年主要アタッカースタッツ
『Transfermarkt』より

え、比較対象が凄すぎる?いやいやクラブ史上最も高額で買った選手なので。メッシは別格すぎるとしても、1試合平均のG+Aが0.5を切るのは流石に落第と言わざるを得ない。そしてこれくらいの数字しか出力できないアタッカーに頼らざるを得なかったのがメッシ退団後のバルセロナであり、近年のクラブ状況の厳しさを物語る。

勿論、数字が全てではない。彼のドリブルが、ゴールがチームを救ってくれたシーンも6シーズンの中で何度かはある。

しかし、先述したようにデンベレはとにかく大一番に弱い。6シーズン在籍したアタッカーとしては極めて異例だが、クラシコでのゴールがない(なのにバルサでの最終戦となった先日の親善試合で決めてしまった、この辺りもデンベレらしい)のである。CLの勝負所(18-19リバプール戦、20-21PSG戦、22-23バイエルン戦など)では決定機を外しブレーキとなるなど最後まで頼れるエースにはなれなかった。

デンベレバルセロナで7つのタイトルを獲得した。ラ・リーガを3回、国王杯を2回、スーペル・コパを2回。しかし、最後までデンベレがチームを牽引して勝ち取ったタイトルではなかった。

メッシがその才能を認めていたように、ポテンシャルは無限大であった。しかし、そのポテンシャルがシーズンを通して遺憾なく発揮されることは残念ながらなかった。ドリブルは上手かったかもしれないが、稼働率含めて「チームを勝たせる」選手には最後までなり得なかった。非常に残念である。

そして、デンベレの退団と共にネイマールの復帰が取りざたされるのが、この6年間の価値と意味を何よりも表している。あまりにも皮肉が効きすぎている報道である。

 

お気持ち

バルトメウ政権の最大の博打は、こうして失敗に終わった。

正直なところこのタイミングでのデンベレの退団には驚いたが、ショックではなかったというのが正直なところである。移籍するなら昨夏かと。でも、こちらの予想を裏切ってきたのが彼なので、いつも通りっちゃいつも通りである。

過去のどんな監督よりもシャビはデンベレのことを信頼していた。シャビバルサにとってアンタッチャブルな存在。でも勝ち取った立場ではなく、苦しいチーム状況で自然に巡ってきた立場という風に僕は解釈している。裏切りやがって!みたいな感情は不思議と湧かない。

シャビバルサにとっては痛手だが、中長期的な目線に立ってみればこのタイミングで売却して(購入額から考えるとちっぽけなものだけど)次の投資に繋げるのは悪い話ではない。市場価値があるうちにリリースできたのは幸運だった。昨夏フリーで出ていく可能性もあったわけだから。シャビと心中するとは思っていたが、そういった情は持ち合わせていなかった。

去る者は追わず。幸いなことにバルサには次代を担うカンテラーノ、ラミン・ヤマルという大器が控えており、希望はある。デンベレの事例から何か学ぶとすれば、未来のスターを誕生させるなら高額の移籍金によってではなく、ラ・マシアという育成機関からであること。少なくともスマホをソックスに忍ばせて練習に臨む人間に1億€を費やすよりは遙かにマシである。

デンベレ入団以降、アンス・ファティとラミン・ヤマルという2つの宝石がカンテラから出現したのは示唆的な事実である。負傷前のアンスは間違いなく他のどの高額アタッカーよりも輝いていたし、ヤマルも恐らくそうなるだろう。クラブがしっかり地に足をつけて再建に向かういい機会である。

 

最後に幸運を祈りたい。勿論デンベレ本人と、これから破天荒なムーブを楽しみつつ忍耐を強いられることになるであろうPSGのサポーターに。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。