Hikotaのバルサ考察ブログ

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【コラム】「ハイリスク・ハイリターン」へ舵を切ったバルセロナ

強いバルセロナが帰ってきた。

と、断言するのはまだあまりに早すぎる。しかし、そう言いたくなるほど最近のバルサは好調である。

リーグ戦では12節カディス戦の黒星以降、16試合で13勝3分の無敗をキープ。国王杯はセビージャに大逆転勝利を収め、決勝に進出。CLではPSG相手に敗退を強いられてしまったが、惨敗だった1stレグに比べると2ndレグは希望の持てる内容であったことは間違いない。

先日のソシエダ戦では敵地にも関わらず、6-1の大勝。スコアでも、内容共にリーガ屈指の強豪を圧倒したのである。

閉塞感が漂っていたバルセロナに再び希望の火が灯った要因はどこにあるのだろうか。

答えは簡単。「リスクを冒す」ようになったからである。もっと具体的に言うと、「背後を取られるリスクを恐れずにボールを奪いに行けるようになったから」である。

 

スターは1人まで

ここ数年のバルサのアプローチは、語弊があるかもしれないが、「ローリスク・ハイリターン」を狙うものであった。リオネル・メッシという歴代最高の名手を抱えるチームは中盤の構成力の低下とともにメッシへの依存度を深めていった。

いつしか「メッシの能力を最大限に発揮すること>チームの哲学」の不等式がチームの不文律となった。メッシ(及びルイス・スアレス)の能力を活かすために、中盤以下の選手たちはボールを捨て、自陣に引き篭もる時間が長くなったのである。

守備の局面で十分な貢献のできないメッシとスアレスがいるチームで相手のボールを奪いに行くのは物理的に不可能なことであり、必然的にバルサはリスクを冒してボールを奪いに行くことを放棄し、ボール支配率は10年前の水準から比べると大幅に低下した。

メッシの活用とバルサの哲学を両立することは極めてリスクの高い選択である。ペップ・グアルディオラ時代に大幅にハードルを上げたことで、毎年タイトルを取って当たり前のクラブに「格上げ」されたことも、リアリスティック路線に拍車をかけたと言えるだろう。

誤解のないように言っておくと、僕はこのリアリスティック路線に関して、ルイス・エンリケエルネスト・バルベルデ元両監督を非難することは難しいと考えている。

ヨハン・クライフは生前、「1チームにスターは1人まで」と説いた。メッシのいるチームにネイマールルイス・スアレスという当代随一のアタッカーを連れて来たのは他でもないフロントの面々であり、そもそも編成の時点でリアリスティックな路線を歩まねばならないことは決定づけられていた。

メッシとネイマールスアレスがチームにいるのであれば、彼らを活かしたサッカーになることは至極当然のことであるし、加齢とともに守備貢献度が低くなったスアレスを抱えなければならなかったバルベルデ時代のアプローチも合理的ではあった。勿論、理想的ではないけれども。

 

条件が整ったチームは

では、現チームはどうであろうか。例えば、「今のチームでメッシに次ぐ選手は誰?」と問われれば、クレは何と答えるだろうか。

答えは人によって様々であろう。今季チームで最も長い時間ピッチに立っているフレンキー・デ・ヨング、依然としてチームの重鎮であるジェラール・ピケセルヒオ・ブスケツのベテラン組、超モダン型GKとして絶対的な存在となったテア・シュテーゲン、あるいは1年目にして主力にのし上がった18歳のペドリの名前が上がるかもしれない。

しかし、このリストにウスマン・デンベレアントワーヌ・グリーズマンのFW陣の名前を連ねることは躊躇われる。彼らは現チームにとって非常に重要なピースではあるが、現時点ではスーパースターのアタッカーではないのである(貰っている額はこの際気にしないでおく)。

つまり、このチームにおいてスペシャルな存在はメッシただ1人。あとのメンバーは自分の力を最大限に発揮する以前にチームとしてのタスクをきっちりとこなすことを要求される。余談ではあるが、今季のデンベレが安定した出場機会を得ているのは、怪我をしなくなったのと共に、攻守両面で人並みのタスクをこなせるようになったからである。

バルサが2月のセビージャ戦から相手のDFラインにハイプレッシャーをかけることができたのはこのような土壌があったからこそ。勿論、メッシにも最低限のタスク遂行を要求したクーマンの胆力も見逃せない。

例えば、ルイス・スアレスが今季も残留していたとしたら、あのような戦い方が可能であっただろうか?ラキティッチビダルもいないチームが自陣に引きこもってセビージャやソシエダに大差で勝てただろうか?

答えはどちらも否である。

ここ数試合のバルサの好パフォーマンスは「リスクを冒す勇気をクーマンとチームが持った」ことと「リスクを冒せるだけの土壌・状況であった」ことが絶妙なタイミングで噛み合ったからこそであったのだ。

 

バルサバルサであるために

バルセロナには明確なフィロソフィーがある。

細かく言語化するのは大変なので、僕なりに2つに集約するとこうなる。

1.ボールを持って相手をコントロールすること

2.常にアグレッシブであること

この2点が鍵であると僕は考える。これがピッチ上で表現できている時のバルセロナは本当に強い。セビージャ戦もPSG戦もソシエダ戦もこの2つの要素をチーム全体で目指していたからこそのパフォーマンスであった。

そのためにはリスクは付き物である。チームとして前がかりにプレーする以上、後方に危険なスペースができてしまうのはやむを得ないことである。PSG戦でキリアン・エンバペに、ソシエダ戦でアレクサンドル・イサクに手薄なスペースを突かれてピンチを招いたようなシーンはこの先も出てくるであろう。

そのような状況で対応したDFを責めるのは簡単である。しかし、その状況・リスクはチーム全体で負っているものであることは理解しておかねばならない。

むしろリスク上等。「ハイリスク・ハイリターン」を志向することこそがバルサの本来の真髄ではないか。背後を取られることを恐れているようではバルサの復活はあり得ない。2点取られても3点取り返せばいいのである。

ヨハン・クライフバルセロナの監督就任時、GKに高い位置でプレーするように要求したという。

現代とは異なり、80年代、90年代の常識ではGKの仕事は主にゴールに張り付いてシュートを防ぐことだけであったため、困惑した当時の守護神はクライフにこう質問した。

「相手がガラ空きのゴールにロングシュートを撃ってきたらどうすればいいですか?」

クライフは返答した。

「その時は相手を称えるだけだ」

今、バルサはこの精神性を取り戻しつつある。