25-26シーズンも後半戦に突入した。苦しい時期を乗り越えながら全コンペティションで結果を残すバルセロナにとって、最も欠かせない選手は誰だろうか。
18歳にして背番号10を背負うラミン・ヤマルか、中盤の大黒柱に成長したペドリか。それとも昨季34ゴール22アシストを記録し、フリックバルサの申し子であるラフィーニャか。意見は分かれるだろうが、今季に関して、この議論に背番号24が割って入ることに異論は要らないだろう。

今季のバルサが実際にエリック・ガルシアを欠いたときにどうなったのか?を論じることはできない。なぜなら彼は今季の公式戦全てに出場しているからだ。36試合で2779分の出場時間はチームでトップの数字である。
しかし、これだけは断言できる。彼の存在なくして、今季のバルセロナは4つのコンペティションで競争力を保つことはできなかったであろう。
厳しいスカッド状況の中で
今季のエリックの貢献度を論じるためには、まずは25-26のバルセロナの後方3ポジションの層の薄さを語らねばならない。
CB
パウ・クバルシ、ジェラール・マルティン、ロナルド・アラウホ、アンドレアス・クリステンセンの4枚。枚数は揃っているが、レギュラーとして計算が立つのはクバルシのみ。
マルティンはトップレベルでのCBとしての経験に乏しい。アラウホはメンタルブレイクで、クリステンセンはコンディション不良と長期離脱でまともな戦力として計算するのが難しい状況である。
SB
ジュール・クンデ、アレハンドロ・バルデのレギュラー組に、冬加入のジョアン・カンセロを加えた3枚。B所属のジョフレ・トレンツはいつの間にかトップチームの招集から外れるようになっている。
ボランチ
ペドリ、フレンキー・デ・ヨング、ガビ、マルク・ベルナル、マルク・カサドの5枚。人数としては最も充実したセクションではあるが、今季フル稼働している選手は1名もいないのが実情だ。
ペドリ、フレンキーの2枚看板は細かい負傷で揃わないことが多く、ガビは長期離脱中。ベルナルは長期離脱明けで慎重なプレータイム管理が必要で、カサドは昨季に比べると大きく序列を落としている。

週2〜3ペースで試合が続く現代サッカーにおいてはあまりに心許ない3つのポジションを、チーム状況に応じて左右問わずに埋めているのが今季のエリックなのである。
トランスファーマルクトのデータによれば、今季のエリックのポジションごとの出場試合数は、CBが20試合、ピボーテが9試合、RSBが6試合、LSBが1試合となっている。CBは左右どちらでもプレー可能で、ドブレピボーテとアンカーのどちらにも対応している。勿論、交代に伴って試合中に彼のポジションが動くことも珍しくない。
後方ポジションのどこかに怪我人が出た時、または誰かを休ませたい時。状況に応じてシフトを調整する主力アルバイトのように、エリックはそこに舞い降りる。人手不足の職場においては喉から手が出るほど欲しい人材である。
「器用貧乏」からの脱却
マルチロールであること自体は、加入時点(21-22)からの特長であった。しかし、加入から2シーズンは「器用貧乏」感がどうしても拭い切れなかった。
カンテラーノらしく技術と試合を読む力はあるものの、守備者としての凄みには欠けるというのが大方の評価であった。182cmと上背がなく、スピードやパワーも際立ったものがないため、トップクラスのCBやSBとしてレギュラーを張るにはスペックが不足していた。
1年目の21-22は負傷者が続出したこともあり、2814分に出場するが、チームがリーグ優勝した22-23は1830分に激減。クンデ、アラウホ、クリステンセン、バルデの4バックの牙城を最後まで崩すことは叶わなかった。「ベンチに置いておくと便利」以上の評価にはならなかったのが正直なところである。
出場機会を求めて翌シーズンはジローナへのレンタル移籍を選択。この移籍でバルサでのキャリアはほぼ幕を閉じたかに思われたが、この選択がエリックにとって大きな転機となった。
想定外の大躍進を遂げ、CL出場権を獲得した23-24のジローナで活躍。エリックにとってはプロキャリアで初めて通年でレギュラーとして試合に出続けたシーズンであった。守備面やビルドアップだけでなく、5得点を奪うなど大きく自信をつけたエリックはハンジ・フリックが就任したバルセロナへの帰還を勝ち取ることになる。

24-25はバックアッパーの位置付けで途中出場メインで45試合に出場した。印象的だったのはシーズン終盤のパフォーマンス。クンデが離脱した右SBの代役として先発を果たすと、クラシコやインテル戦で力強いプレーを披露した。もっと序盤から先発の機会を与えるべきだったのでは?の議論を巻き起こすには十分すぎる出来であった。
そして迎えた今季は遂にバルセロナでレギュラーの座に君臨。イニゴ・マルティネスが抜けて混迷を極めたDFラインの新たな軸として君臨するエリックに、最早「器用貧乏」という言葉は似合わない。どのポジションでも質の高いプレーを発揮する「最強のマルチロール」としてチームに欠かせない選手へ昇華したのである。
自信と経験が最高の助けとなって
今季のエリックを見ていると、自信や経験がフットボーラーにとってどれほど重要なのかを痛感する。

元々の強みであったビルドアップの部分では力強い持ち運びが目立つ。時にリスクを取りすぎて大きなカウンターを受けることもあるが、臆せず敵陣深くまで突き進む姿勢は自信の現れである。彼の持ち運びやフィードから得点が生まれることは少なくない。
ボール保持における自信は、ピボーテとしてのプレーの質向上にも寄与している。過去シーズンに比べるとボールを引き出す回数が向上し、パートタイムのピボーテとしては十分なレベルを見せている。流石にハイプレスを受けた時の回避力には課題を残すが、押し込み展開のアンカータスクは難なくこなす。
そして、課題だった非保持については本職のCBとしてのプレーレベルが向上。フリックのアグレッシブすぎるライン設定は、むしろ頭脳的なプレーを好み、リスクテイクを恐れない気質からすると好都合であろう。
平準的な守り方で、純粋なフィジカル勝負に持ち込まれると分が悪いのは明白であるため、オフサイドトラップで相手を処理することを優先事項とする今のやり方は、彼目線で言えばやりやすいと言える。迷いがなくなったからか、スピードも上がったように見えるのは気のせいだろうか。
彼のマルチロールとしての評価をさらに引き上げるのは負傷の少なさである。これまでのプロキャリアでは2ヶ月以上の離脱が1度もない。コンスタントに起用しやすいのは、層の浅いスカッドをマネジメントする側にとっては利点の1つだろう。
勿論、これほど試合に出たのは今季が初めてであるため、勤続疲労による大きな怪我には注意が必要ではある。
カピタンの一員へ
24-25躍進の立役者であるイニゴ・マルティネスの電撃退団はバルセロナに暗い影を落とした。彼の穴を埋める補強はできておらず、3シーズン前は絶対的なレギュラーだったアラウホとクリステンセンはまたも十分に働くことはできなかった。Bチームからの有能株も今季は現れない。
繰り返しになるが、エリック・ガルシアのブレイクがなければ今季のバルセロナの成績は悲惨なものになっていただろう。だからこそ筆者はシーズン前半戦の選手評価で彼をMVPに選んだ。恐らくシーズン終了後も彼を選ぶだろう。
彼のように逆境から這い上がり、飛躍する選手を見るのは、チームを線で追うファンにとっては最高の喜びである。ひ弱な印象しかなかった出戻りのカンテラーノが、今や最も頼りになる選手の1人になった。このようなストーリーを享受するために長年このスポーツを観ていると言っても過言ではない。
本音を言えば、彼のようなプレーヤーを準レギュラーとして起用できるのが本当に盤石に強いチームなのだろう。しかし、バルセロナがその状態に戻るにはもうしばらく時間がかかりそうである。
願わくば、来季は彼にカピタンの1人になって欲しい。在籍年数も上から数えた方が早くなった。苦しい時期を乗り換え、トップチームの主力に上り詰めた今のエリックほど腕章が似合う選手はいないだろう。

まずは今シーズン、エリック・ガルシアに率いられたバルセロナが1つでも多くのタイトルを掲げる姿に期待したい。
最後までお読みいただきありがとうございました。