両チームにとってシーズン最終戦となりました国王杯決勝。リーガは圧倒的強さで2連覇を成し遂げたバルセロナですが、CL準決勝での惨敗で大きな傷を負いました。一方のバレンシアはシーズン序盤は降格もちらつくほどの絶不調だったものの、シーズン中盤戦から劇的に調子を上げ、最終的はリーグ4位、ヨーロッパリーグベスト4と上出来の成績を残しています。
スタメンです。負傷者続出のバルセロナはリーグ戦最後の2試合と同じくメッシを最前線に置く4-3-3を採用。両翼はセルジ・ロベルトとコウチーニョが務め、負傷からギリギリで間に合ったアルトゥールが中盤の一角を担います。
バレンシアはいつも通りの4-4-2。マルセリーノ監督お馴染みのコンパクトな守備陣形と前線の選手たちの素早いカウンターは今シーズンも健在です。
■攻めあぐねるバルセロナとコントロールするバレンシア
試合はボールを保持するバルサと4-4-2のブロックを作ってカウンターを狙うバレンシアという予想通りの構図でスタートします。バルサはボールを保持し続けたものの、バレンシアのコンパクトな陣形の前になかなかファイナルサードを攻略することができません。
5分40秒のシーンを図で再現してみました。このような状況に陥ることが前半多かったように感じます。このシーンではブスケツが2CB間に落ちてビルドアップに参加。バレンシアの2トップに対して数的優位を作って安全にボールを運びます。その前方ではラキティッチとアルトゥールがFWとMFラインの中間に横並びでポジションを取ります。いつもと違ったのは、右ウイングにワイドでボールを受けることを好むセルジ・ロベルトが配置されたことです。メッシは1トップながらいつものように右のハーフスペースでチャンスを窺います。
この陣形の問題点は大きく分けて2つありました。
- セメドが全く活きない→右サイドで渋滞が起きる
- 相手の危険なエリア(バイタルエリアもしくは裏のスペース)に人とボールが入らない
1に関しては図を見れば一目瞭然ですね。セルジ・ロベルトがワイドにポジションを取ることで、セメドの前方のスペースが塞がれています。この試合ではセメドは内側にポジションを取ってボールを受けることもあったのですが、やはりそのプレーは不得手。彼のスピードはサイドの広いスペースでこそ発揮されます。セメドをサイドの低い位置に置いておいても、ネガティブ・トランジション対策以上のものは生まれません。
2に関してはもう少し深刻です。先述したようにメッシは右サイドに寄ってプレーをしています。つまり真ん中に人がいなくなります。本来0トップシステムではメッシが空けたスペースに他の選手が飛び出すことで攻撃が成立するのですが、効果的な動きはなかなか生まれませんでした。厳密に言えば、コウチーニョやセルジ、アルトゥールはそのスペースを散発的に狙ってはいましたが、バレンシア守備陣が脅威に感じるほどではありませんでした。
たまに何であの選手は効果的に走らないのだろうと僕たち素人目からすると思ってしまうのですが、華麗なスルーパスや強烈なシュートと同じくらい、フリーランニングにもセンスと技術が求められます。そしてこのフリーランニングの動きこそ今のバルサの攻撃陣に欠けている動きの一つですね。
バレンシアの守備ブロックの外側でずっとボールを回しているというイメージでしょうか。内側、特に2CBとダブルボランチの間のスペースをほとんど使うこともできませんでした。このように4-4-2でコンパクトに守ってくるチームに対しては素早いサイドチェンジが有効なのですが、それも効果的なものはありませんでした。
▪️バレンシアの主人公、パレホ
さて、攻めあぐねたバルサですが、高い支配率でバレンシアを自陣に押し込むことはできていました。ただ、その状態からでもカウンターに持ち込めるのがバレンシアと他のチームとの差です。その理由を、前線の選手たちのスピードと断ずるのは簡単ですが、実は鍵を握っているのはピッチ中央の背番号10です。
ダニ・パレホはレアル・マドリーのカンテラ出身でもあり、かつてあのディ・ステファノから「彼がプレーするなら毎日観に行く」と賞賛を受けるほどのプレーヤーです。長らく日の目を見ませんでしたが、近年スペイン代表にも招集されるなど、キャリア後半で名声を獲得しつつあります。
パレホがチームにおいて担っているのは攻撃のスイッチングです。類稀なる技術と判断力によって遅攻と速攻を使い分けています。
前半5分のシーンです。中盤中央でバレンシアがボールを奪うとパレホの元にボールがこぼれます。パレホは素早く右方向にターンすると、そのまま右サイドに向けてドリブルをします。バルサのほうも素早いネガティブ・トランジションでパレホにプレッシャーをかけます。しかし2人がかりのプレッシャーを物ともせずに(アルトゥールとコウチーニョの追い方もまずかったですが・・・)、ドリブルでタメを作ります。この間に、前線の選手たちは一気に前に走りこむのです。
カルロス・ソレールのスルーパスはラングレがカットしますが、ラングレは何故か自陣中央に走りこんだロドリゴにスルーパス。シレッセンは躱されたものの、ピケがなんとかゴールライン上でクリアするファインプレーを見せてなんとか事なきを得ました。
ともかくこのパレホの働きにより、バレンシアの攻撃は速攻一辺倒にならずに済んでいるのです。このような選手が評価され始めているのは嬉しいことです。激しいフィジカルコンタクトも厭いませんし、バレンシアと対戦するといつも厄介だなって思ってます。
■あっけのない2つの失点
ここで注目してほしいのは相手ボールにも関わらず、バルサの選手が6人も意味もなく前線に留まっていることです。このあとドメネクは右サイドのパレホに浮き球で正確なパスを出すのですが、この単純なパス一本で6人が置き去りにされたわけですから、トランジションが遅すぎると言わざるを得ません。下がるのも1つの手ですし、全員でもっとプレスをかけるという選択肢もあります。ただ漫然とそこにいるだけでは何も防ぐことができません。
パレホはパスを受けると再びタメを作ってからコクランにパス。コクランは前方のカルロス・ソレールにスルーパスを出します。アルバに走り勝ったカルロス・ソレールがクロスを上げるとロドリゴがフリーで合わせて追加点を奪います。
手痛い2失点目を食らってしまったバルサは前半の終盤に立て続けにシュートを放ちますが、ドメネクの好セーブも遭って得点を奪うことができません。前半はこのまま0-2で終了します。