Hikotaのバルサ考察ブログ

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【コラム】腕章なきリーダーへ イニゴ・マルティネスとの別れ

2023年にイニゴ・マルティネスの加入が発表された時、それほどバルセロナ界隈は湧き立たなかった。無論、ラ・リーガ有数の左利きCBであることは分かっていたが、既に30歳を超えており、怪我も多く、ビッグクラブ未経験のベテランに期待されていたのはせいぜい準レギュラーとして数十試合に出場することでしかなかった。

それから2年後の今、これほどに別れが惜しまれる存在になるとは想像だにしていなかった。バルセロナは2025年8月9日、イニゴ・マルティネスの退団を発表した。彼の新たな旅立ちに際し、2年間のイニゴの貢献をここに綴りたい。

 

狂気のハイラインへの適応力

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ファーストシーズンとなった23-24シーズンは、期待以上でも以下でもない1年間を過ごした。レギュラーとして起用された時期もあったが、負傷の影響で長続きはせず。また、トップレベルのクラブとの対戦では、CBとしての強度に物足りなさを感じさせる出来となった。

シーズンオフには換金目的で放出候補として名前も挙がるほど、チームでは微妙な立ち位置であったイニゴにとって最大の転機となったのが、新監督ハンジ・フリックの就任であった。

本来序列が上であったはずのロナルド・アラウホとアンドレアス・クリステンセンの負傷離脱も彼に味方をし、開幕からパウ・クバルシの相方の座を射止めると、1シーズンを通して絶対的なレギュラーとして君臨。3975分のプレータイムはチームで6番目の数字である。

チーム唯一の左利きCBとして、ボール保持時は斜めのラミン・ヤマルへの対角線のフィードで存在感を放った。また、自身でボールを運ぶことを苦とせず、彼の勇気のある持ち出しはいくつもの得点に繋がっている。

しかし、なんと言っても24-25のイニゴを特別な存在にしたのは、過剰なほどにアグレッシブなラインコントロールの主導者であったことにある。

ハンジ・フリックのチームはほとんど下がらない。例えば、相手のボールホルダーがフリーで長いボールが蹴れる体勢の時、通常のチームであればロングボールを警戒してラインを下げるが、バルセロナはそうではない。縦のコンパクトネスを保つために最終ラインを高く保ち、相手のラインブレイカーはオフサイドで処理する。

この半ば狂気じみたハイライン戦術を支えたのがイニゴであった。いち早く最終ラインを上げ、ズルズル下がってしまう味方選手には檄を飛ばし、相手の見事なラインブレイクに対しては、懸命に背走し(彼は意外と足が速い)、チャンスをすんでのところで潰してきた。まさにフリックの「ハイリスク・ハイリターン」戦術の申し子として、イニゴは多大な貢献を見せてきた。

特筆すべきはその適応力であろう。フリックの特異な戦術はキャリアを長く重ねたイニゴにとっても初めての経験であっただろう。これまでの経験の蓄積があるベテランからすると、自分の固定観念との戦いでもあったはずだが、イニゴはすんなりと順応したのである。

環境に対して柔軟に適応する能力こそ、イニゴの選手としての大きな強みだったのではないだろうか。

 

アームバンドを巻かないリーダーとして

2021年のリオネル・メッシの退団を皮切りに、バルセロナは財政の問題により多くのベテラン選手との別れを余儀なくされた。

ジェラール・ピケセルヒオ・ブスケツジョルディ・アルバ、セルジ・ロベルト、イルカイ・ギュンドアンといった経験豊富な選手たちが去り、24-25シーズンのフィールドプレイヤーで30歳以上の選手はロベルト・レバンドフスキとイニゴのみの陣容になっていた。

10代後半から20代前半のスペイン人選手を中心に構成される現在のバルセロナの陣容において、良き兄貴分として振る舞ってきたイニゴの存在は貴重であっただろう。選手たちのSNSを見ていても彼が慕われていたことはよく伝わってくる。

若手にとっての良い兄貴分であり続けた

特に18歳になったばかりのパウ・クバルシにとって、15歳上の相方が常に横にいたのは大きな助けになった。彼が2年目のジンクスなどに無縁だったのは、イニゴの存在と無関係ではないだろう。

センターラインでキャプテンシーを発揮し、周りに叱咤激励を飛ばす役割を引き受けてくれるベテランのおかげでクバルシは自身のプレーにより集中することができた。

昨季は、第1キャプテンのテア・シュテーゲンは大怪我の影響でシーズンを棒に振り、次なるキャプテンのフレンキー・デ・ヨングやロナルド・アラウホは出場機会が安定しなかった。主要なカピタン陣が不在のゲームが多い中で、腕章を巻かない背番号5の、定量値では測れない貢献度は計り知れないものがあっただろう。

ブスケツの次の背番号5が彼で良かった

 

バルセロナに訪れるCB問題とイニゴへの感謝

突如として頼れるCBを失ったバルセロナは、今シーズン、イニゴの存在の大きさを痛感することになるだろう。

チームの核に成り上がったクバルシは安泰だとしても、相方候補のロナルド・アラウホ、アンドレアス・クリステンセンはここ2シーズンは負傷の影響でコンディションに不安を覗かせている。プレシーズンで試されたように、左利きのジェラール・マルティンを4人目のCBとして計算しているのだろうが、経験は大きく不足している。

イニゴは国内3冠の獲得に大きく貢献してチームを去ることになった。本来であれば、フリートランスファーで獲得した34歳のCBを手放すタイミングとしては悪くなく、美しい別れではある。しかし、彼に代わる新たなCBを獲得できない状況であるため、今のところは純粋な戦力減と評価する他ない。

筆者としては、新たなリーダーとなるクバルシへの心身両面の負荷がグッと強くなる状況を大いに懸念している。試合に出ることさえできればクオリティに間違いのないクリステンセンがシーズンを通して健康体であれば、その懸念も杞憂で終わるのだが…。

ともかく、イニゴの2年間の、特に最後の1年の貢献度は目を見張るものがあった。点数をつけるなら100点満点の120点である。冒頭でも述べた通り、ここまでの存在になるとは思いもしていなかった。

そして、苦しいクラブ状況の中で身を引くことで、問題を解決に導いてくれたことに感謝しなければならない。決してこれを美談にしてはならないし、他の選手がそれをしなかったからといって責められる理由にはならないと考える。ただ、バルセロナというクラブが現在、多くのベテラン選手の犠牲によって成り立っていることは間違いない。

改めて、イニゴ・マルティネス、偉大なリーダーの2年間に感謝を伝えたい。イニゴ、ありがとう!次のキャリアでの成功も祈っています。

2年間本当にありがとう!

 

最後までお読みいただきありがとうございました。