Hikotaのバルサ考察ブログ

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【コラム】復活のペドリ ~”ガラスの天才”から”ブラウグラナの心臓”へ~

「僕とペドリかな」

2025年3月のインタビューで、「チームで最も才能があるのは?」の質問に対して、当時17歳のラミン・ヤマルはこう答えた。

バルセロナの背番号10を25-26シーズンから継承する新エースの、自身のクオリティへの強い自負を感じるエピソードである。同時にその自分と同格に並べるほど、5つ歳上の天才ミッドフィルダーへのリスペクトを含んだ発言でもあった。

その評価が決して過大でないことをペドリは再証明した。

 

◼️抜け出した負のスパイラル

24-25シーズンのペドリは59試合に出場し、6ゴール8アシストを記録。合計4644分の出場時間はチームトップの数字となっている。

ペドリと言えば、過去3シーズン負傷に大きく苦しめられてきた選手である。デビューシーズンの20-21はシーズン終了後の代表活動(EURO、五輪)も含めてフル稼働したが、そのツケが回ってきたのが後の3シーズンだった。度重なる負傷により、クラブが消化するプレータイムの半分以下しか出場できなかったのである。

※プレータイム消化率=ペドリのプレータイム/クラブの総プレータイム

しかし、今季は一転して、一度も負傷離脱することもなく、シーズンを終えることになった。負のスパイラルから抜け出し、チームトップのプレータイムを記録したことは彼の「復活」を大きく印象づけたと言える。

大きな要因はフリック体制でチームのトレーニングの方針が変化したことだろう。複数の選手が証言しているように、前政権に比べるとフリックの指揮下ではフィジカルトレーニングに重きを置いており、それがゲーム終盤までチームが走り切れる一因となっている。

さらに、フリックとクラブはペドリ個人用のトレーニングプランを用意。遺伝子分析をベースに用意された個人専用の筋力トレーニングで、ペドリの身体はバランスを取り戻すことに成功した(ペドリの成功を受け、同じく負傷が絶えないロナルド・アラウホやダニ・オルモにも同様のプログラムを適用する予定だとか)。

その甲斐もあって、ペドリはバルセロナアンタッチャブルな存在として君臨し、今年のバロンドールの候補の1人として名前を連ねるほどの活躍を見せた。現代サッカー界のトップオブトップを争う選手として認められることになったのである。

 

◼️「イニエスタ」から「シャビ」への役割の転換

フリックの就任で変わったのはフィジカルコンディションだけではない。役割の変更も彼の飛躍を後押しすることになった。

フリックの前任者であるロナルド・クーマンやシャビ・エルナンデスはチームにセルヒオ・ブスケツという3列目のドンがいたこともあり、ペドリを所謂攻撃的MFとして起用。よりゴールに近い位置で、得点やアシストに絡むプレーを求められてきた。

22-23シーズン_シャビバルサ ボール保持時の陣形イメージ

それに対して、フリックはペドリを相対的に低めの位置、3列目(ドブレピボーテの一角)として起用。ゴールからやや遠い位置をスタートポジションとしながらゲームをコントロールし、機を見てラスト30メートルの局面に進出する役割を与えた。本質的には2.5列目と言えばイメージしやすいだろうか。

24-25シーズン_フリックバルサ ボール保持時陣形イメージ

ペドリはデビュー以来「イニエスタの再来」というフレーズで賞賛を集めてきたが、今の彼の役割は同じクラブレジェンドでもシャビのそれに近い。(本人が監督を退いた途端、シャビの方のプレーに傾倒するのは少し皮肉めいているが。)

絶え間なく背後を狙うラフィーニャと右の大外で違いを作り続けるヤマルとの相性は抜群。強力なアタッカー陣を操るコントローラーとして、バルセロナの攻撃を司っているのは彼である。

イケイケドンドンになってしまいがちな若いチームだけに、仙人のような落ち着きを持ってゲームをオーガナイズできるペドリは、今のバルセロナの3列目に不可欠な選手である。

ボールを持った時にずば抜けて上手いのは周知の事実だが、3列目として特筆すべきはボールを持っていない時のプレー強度である。先述した通りフィジカルのレベルが一段上がったことによって、明らかにプレーの連続性が増している。

バルセロナがボールを持っている時のペドリを目で追っていると、その場で静止していることがほとんどないことが分かる。ただし、闇雲にピッチを縦横無尽に駆け回っているわけではなく、3〜4歩のポジションの微調整を絶え間なく続けているのだ。

この予備動作でペドリはマーカーに対して常に困難な状況をつきつける。相手の視野から消える、2人の間に入って受け渡しを惑わせる、わざと近づいて味方に優位性を与える、などパターンは様々。気が付けばペドリのペースでゲームは進む。

ペドリはプレーエリアを選ばない選手でもある。相対的に低い位置を起点としながら、時にはライン間、時にはサイドに流れるなどと踊るように動く。対戦相手からすると、2列目を務めていた時よりもかえって掴みどころのない選手になったのではないだろうか。

また、バルセロナがボールを持っていない時でも、ペドリの類まれなる能力は存分に発揮されている。

デビュー1年目の頃からスペースを埋め、味方の背後をカバーするプレーに定評はあったが、前述の通りプレーの強度が増したことで、24-25シーズンは非保持において大きな存在感を見せた。

今季のボールリカバリー数は254回。これはなんと24-25シーズンの欧州主要リーグにて最も高い数値なのである(参照記事)。前線から激しくプレッシングをかけるフリックのスタイルの中で、抜群のポジショニングと読みの鋭さによるペドリのボール回収率の高さはチームの1つの武器になっている。

公称で174cm60kgと純粋なパワーだけで言えば非力な選手である(流石に今はもっと体重はありそうだが)。フィジカルモンスターであることがボールハンターの必須条件ではないことを、ペドリはそのプレーで雄弁に物語っている。

より逞しくなり、攻守に両面において完璧な選手に近づいたペドリは、ブラウグラナの新たな心臓としてこれから10年のバルセロナを牽引していくだろう。

 

◼️いざ、バロンドール

3シーズンに渡る苦悩を経て、ペドリはようやく自身がいるべき位置まで戻ってきた。鮮烈なデビューシーズンから、ここまで苦しい時間が続くとは思ってもみなかったが、必要な挫折だったのではないだろうか。

思い返せば、あのリオネル・メッシも10代の頃は負傷続きで、コンディションが安定したのは22歳を迎えるシーズンだった。奇しくも今のペドリと同じ年齢である。ここからペドリの時代は始まるのだろう。

トップ下に近い位置でよりゴールに直結するプレーが求められる役割よりも、低めの位置で攻守にわたって影響力を行使する役割を任せる方が、現在のチームスカッドを考えると合理的である。セルヒオ・ブスケツというレジェンドが勇退した今、バルセロナの中盤はペドリのものだ。

筆者としては、ペドリのバロンドール受賞を願ってやまない。バロンドール自体陳腐化してはしまった感は否めないが、依然としてサッカー選手個人を讃える最高の栄誉であることには変わりはないだろう。

一流のアタッカーは数値で評価されるが、中盤、それもペドリのようなタイプは必ずしも定量値で価値は測れない。だからこそ、彼には勝ち取ってほしい。認められてほしい。今季のレベルを維持し続ければ必ず手が届く。

いつの日か、欧州王者のタイトルを引っ提げて、偉大なレジェンドであるシャビ、イニエスタブスケツでも手が届かなかったトロフィーを、照れくさそうに掲げるペドリの姿が見られることを切に願う。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。