定点観測①はこちらから
1. 9月下旬~10月上旬シリーズの振り返り
1-1. 国内の”難敵”を一蹴
23‐24シーズンは、苦難続きの1年間でした。リーグ戦でレアル・マドリーに10ポイント差をつけられての2位に終わった大きな要因はクラシコ、つまりは1位・2位の直接対決に2戦とも敗れたことでしたが、シャビバルサが苦杯を舐めた相手は彼らだけではありませんでした。
中でも大きな屈辱を味わったのが、ジローナとビジャレアルの2チーム。ジローナにはシーズンダブルを食らい、ビジャレアル相手の大敗はシャビ監督の辞任の引き金となりました。両チームに昨季喫した失点数は4試合でなんと計16失点。まさに”難敵”の2チームとの対決は、開幕から快進撃を続けハンジ・フリックのチームにとっての、代表ウィーク明け最初の大きな壁となることが予想されていました。
しかし、蓋を開けてみればジローナに4-1、ビジャレアルに5-1の大勝で、昨季のリベンジをあっさり遂げました。両チームとも昨季と陣容が変わったという要因もありますが、昨季あれだけ苦戦を強いられた2チームを全ての局面で制圧する様はまさに痛快でした。
ハンジ・フリックのチームの保持・非保持両面での攻撃性はジローナやビジャレアル相手にも変わることがありませんでした。開幕4試合に比べてさらに際立ったのが圧倒的に高いDFラインの設定。あっさりと背後を取られるリスクもあるものの、相手アタッカーを面白いようにオフサイドの罠に嵌め、攻撃の機会を与えないフリックの”攻めたスタイル”はリーガを席巻するに至っています。
リーグ戦9試合で28得点9失点。得点数は当然ぶっちぎりで1位ながらも、失点数はレアル・ソシエダやレアル・ベティスの後塵を拝して、7位タイ。ハンジ・フリックのハイリスク・ハイリターンの戦い方はスタッツにも如実に表れています。
1-2. 欧州での躓きと露呈した選手層の薄さ
一方で、躓きも同時に経験します。CLグループステージの初戦となったモナコ戦では、開始10分でエリック・ガルシアが退場に追い込まれ、まさかの敗戦。続くビジャレアル戦ではキャプテンで守護神のテア・シュテーゲンが今季絶望の怪我を負い、クラブは慌てて今夏引退したばかりのヴォイチェフ・シュチェスニーを緊急補強。
さらには過密日程を考慮して大幅なローテーションを敢行したオサスナ戦では、開幕当初から露呈していた弱点であるサイドでの守備を、ブライアン・サラゴサとヘスス・アレソに幾度となく破られ、2-4の大敗を喫してしまいます。
フリック・バルサの構造的弱点を上手くオサスナに突かれた格好になったわけですが、同時にケガ人が続出しているバルセロナの選手層の薄さも突き付けられる形にもなりました。
セルジ・ドミンゲスとジェラール・マルティンの両カンテラーノはまだトップチームのバックラインを任せられるほどの準備はできていないように見えますし、プレシーズンマッチで印象的な活躍を見せたパウ・ビクトル、パブロ・トーレも現時点では序列をひっくり返しそうな気配はありません。フェラン・トーレスも今季のパフォーマンスを見る限り、前線の便利なバックアッパーという地位から抜け出すのは難しそうです。
とはいえ、ここまでリーグ戦では8勝1敗の首位に立ち、CLも初戦こそ苦杯は舐めたものの続くヤング・ボーイズ戦での大勝で、敗退を心配する声はあらかた吹き飛ばしました。難しい状況ながらも、フリックは上手くスカッドをやり繰りしていると評価すべきかと思います。
2. 各ポジションの役割と現時点での序列
さて、今回は代表ウィーク明けのビッグマッチも控えていることなので、フリック・バルサの現時点での各ポジションの役割と序列を整理しておきましょう。前回の定点観測①ではチーム全体のやり方をざっくり書いたので、今回はポジションごとに見ていきたいと思います。
①でも書きましたが、本ブログではフリック・バルサの基本フォーメーションを4-2-3-1と表記します。ダブルボランチの役割とプレーエリアがはっきり分かれるので、以下のように4-1-2-3とも表記できそうですが、一旦は4-2-3-1ということで。この辺りは些末な違いなので拘りはありませんが。
※各ポジションの「主な選手」から今季1試合も出ていない選手は外しています。
2-1. ゴールキーパー
主な選手
- テア・シュテーゲン
- イニャキ・ペーニャ
役割
従来のバルセロナでのGKに求められる要件からは基本さほど変化はありません。
ただ、シャビ政権と比べると、ビルドアップの際に両CBの間に進出し、エリア外からの配球を求められるシーンは増えたように思います。フリックはコンビネーションでの中央の崩しを求めるため、GK+両CBで相手のプレスを誘引し、背後を一気に強襲する形は狙いの1つでしょう。
また、極端なハイラインを敷いているため、前に出て相手のロングボールを処理するスイープ能力や、オフサイドトラップを掻い潜ってゴールを狙うアタッカーとの1対1の勝率というのも重要な評価軸になるでしょう。まさにバイエルン・ドイツ代表で指導したマヌエル・ノイアーがフリックにとっての理想像なのではないでしょうか。
保持・非保持問わず、ゴールマウスを離れた位置での質の高いプレーがより求められるのがフリック・バルサの守護神の役割の大きな特徴と言えるでしょう。
序列
セービングに疑問の声が寄せられる試合もあるものの、世界屈指の配球能力と抜群の1対1の強さを誇る同郷のテア・シュテーゲンもまた、フリックにとってアンタッチャブルな存在であったと思います。それだけにビジャレアル戦での彼の大怪我はプランを大きく狂わせる出来事になりかねないものです。
第2GKのペーニャはセービング自体はそれほど悪くはないものの、配給力は並みで、ロングボール・クロスに対する処理スキルには難を抱えます。物足りなさを感じてしまうもう1つの要因は味方守備陣に対する影響力が十分ではないこと。昨季露呈したようにパーソナリティはどちらかと言えば内気で、黙々と自身のプレーに集中するタイプです。
ペーニャに残りシーズンを背負わせるのは難しいと判断したフロントとフリックは経験豊富なシュチェスニーの獲得を決定。ユベントスではタイトルを多く勝ち取り、ポーランド代表で国際舞台の経験を積んできたベテランの加入は心強いものがあります。
これまでのセーブ率のスタッツを見る限り、セービングの技術には定評があると思いますが、スイープ能力や配球の部分でどれだけやれるかは未知数でもあるので、そこはこれから評価していきたい部分になるでしょう。
2-2. センターバック
主な選手
右CB
- パウ・クバルシ
- セルジ・ドミンゲス
- ジュール・クンデ
左CB
役割
今季のバルセロナを象徴するのはとにかくハイライン。常に綺麗にラインを揃え、裏抜けしてくる選手だけでなく、DFラインの手前でボールを受けるつもりだったアタッカーが、細かいバルセロナのライン上げについてこれずにオフサイドにかかるシーンも1度や2度ではありません。
当然、ハイラインの中心はCBです。彼らには勇気を持って高いラインを維持すること、ラインの上げ下げの微調整を怠らないことと、DFライン全体をコントロールするリーダーシップが必要となります。
勿論、従来同様にボール出し・持ち運びの技術は大いに求められます。昨季に引き続き、展開によっては右SBがCBの一角としてビルドアップに参加する3バック化の選択肢もあり、その場合は右CBはCCB(中央のCB)、左CBは左HV(3バックの左)にスライドする戦術的柔軟性も求められます。
序列
圧倒的堅守でお馴染みの22-23バルセロナを支えたロナルド・アラウホとアンドレアス・クリステンセンが離脱中の現在は、CBコンビはクバルシ&イニゴがファーストチョイスです。
DFリーダーは17歳のクバルシ。プレースキルだけでなく、全体をオーガナイズする能力に長けた彼がハイラインの中心です。昨季からクオリティを見せていたものの、今季は明文化された守備戦術の中で「爆発的なフィジカル能力がなくとも、インテリジェンスで守れる」ことをさらに証明した感があります。
左CBがメインだった昨季とは異なり、右CBでのプレーはさらに彼のフィード能力を際立たせることに繋がっています。バジャドリード戦のラフィーニャに出した最高のアシストはまさにその一例で、対戦相手からすると、CBから歴戦のピボーテのようなラストパスが出てくるのはたまったものではありません。
そのクバルシと現在相方を組むのは左利きのイニゴ。トップレベルのCBとしては特筆するほど秀でた武器があるわけではありませんが、能力のパラメータのバランスが良く、クバルシとのコンビネーションも良好です。左利きなので、チームのエースになったヤマルへの対角線のフィードが飛ばしやすいのも利点の1つでしょう。
フリックはDFラインの核であるクバルシへの負荷に関しては相当な気を遣っており、ここまで10試合に先発する一方で、フル出場は4試合のみ。一方で、現在の控え1番手のセルジ・ドミンゲスはまだトップでスタメンを張るレベルにはなく、ジュール・クンデは完全にSBの選手に昇華しました。
そうなってくると、アラウホとクリステンセンの両巨頭が戻ってきたときに序列がどうなってくるのかは論点の1つでしょう。SB裏のカバーやハイラインのリスクを考えると爆発的なスピードを誇るアラウホを使いたくなりますが、どちらかと言えば細かいラインコントロールは不得手なタイプです。
キリアン・エンバペやヴィニシウス等の物理的な速さで殴ってくるアタッカーの相手をさせるのであれば、適任はアラウホしかいませんが、22-23シーズンの後半戦以降はヴィニシウスがアラウホを攻略し始めている感も否めないので、その辺りをフリックがどう評価するかは見物です。
クリステンセンはコンディションの安定具合と中盤起用がどれくらい発生するかによってCBでのプレータイムは左右されそうな気はしています。個人的にはクバルシの次にCBとしての総合力が高いのは彼だと思っていますが、クバルシの相方は90分フルで使える選手でないと計算が難しいのも確かでしょう。
2-3. サイドバック
主な選手
右SB
- ジュール・クンデ
- エクトル・フォルト
左SB
- アレハンドロ・バルデ
- ジェラール・マルティン
役割
両サイドともに、非保持で優先して求められるのは高い位置からボールを狩りに行くことです。
定点観測①でも書いたように(上記画像参照)、フリックは攻撃的なプレッシングを好みます。WGが外切りで相手CBにプレスをかける分、SBは相手SBへの高い位置からのプレスを求められます。そのため、縦へのスピードと奪いに行く思い切りの良さ・判断力は求められる要件になります。
また、WGが相手CBにプレスに行く分、WGが自陣サイド深くまで戻ってくることが物理的に難しく、プレスを掻い潜られた際に相手SB&相手WGとの1対2の状況での対応を強いられるケースが少なくありません。ボランチのヘルプが得られない場合はSB何とか頑張れ!になるので、その無茶ぶりに応えるフィジカル能力は必要となります。
保持時は左肩上がりの陣形を取るのはフリックバルサでも同様であるため、基本的に左SBは大外の高い位置を取ります。左WGの選手がサイドのレーンを出入りするので、最初からWG化するというよりも、状況を見ながら高さを決めていく形になりますが、基本的にレーンは大外一択です。
一方、右SBは状況に応じて、右HV化、大外WGの後方支援、右WG化等の役割・立ち位置を柔軟に変更することが求められています。左SBと比べるとより複雑なタスクを任されていると言えるでしょう。
序列
左サイドはバルデ、右サイドはクンデがレギュラーとして君臨しています。
昨季に大きな負傷を負ったバルデに関しては、ここまでの公式戦990分中723分(チーム8位)を記録。負傷の影響で慎重に起用されているという側面もありますが、ここまでのプレーの評価としてはバルデが不動の地位を築くには少々説得力に欠けると言わざるを得ません。フィジカル的な能力は健在である一方、デビューシーズンからプレーの幅は広がらず、緩慢なプレーでピンチを招くシーンも少なくありません。
まだ20歳で発展途上のバルデには競争相手が必要だと思いますが、左サイドのバックアアップを務めるマルティンも実力不足を露呈。屈強なフィジカルを買われてトップチームに毎試合招集されていますが、判断力やボールスキルの面でまだまだプリメーラのレベルからは後れを取っており、ローテ要員の域を出ていないのが現状です。
右サイドはクンデの独壇場です。嫌々SBをやっていた前2シーズンに比べると、プレーの幅が大きく広がりました。必要に応じて立ち位置を変えながら、ヤマルを適切にサポートするだけでなく、彼自身のチャンスメイクから得点に繋がるシーンも出てきました。
元々の武器である対人守備の強さも健在であり、世界有数のライトバックへの道へ邁進しています。CBへの未練は断ち切りましょう。
右サイドのバックアップは昨季シャビに見いだされたフォルトですが、フィジカル的な強靭さが求められるフリック・バルサにおいてはやや序列が低下した印象です。第9節のアラベス戦で初先発を飾りますが、これはクンデの遅刻に対する懲罰に起因する起用で、信頼度はこれから高めていく必要がありそうです。
こう見ていくと、SBはCFと並んで最も層の薄いセクションと言えるでしょう。バックアッパーに全幅の信頼がおけない以上、クンデやバルデが負傷離脱した時に備えて、今からオプションは想定しておくべきです。ありそうなのが、エリック・ガルシアの右SB起用。昨季のローン先のジローナでの起用法に近いかと思います。そして僕は、数年来のフレンキー・デ・ヨングSB論者でもあります...。
✔️フリックバルサのコアであるペドリ、オルモで中盤の2枠が埋まる
— Hikota (@BarcaHikota) 2024年10月8日
✔️もう1枠はアンカー役ができて、パフォーマンスも良いカサドで決まり
✔️停滞気味のバルデに何とかして危機感を持たせたい
導き出される、左SBフレンキー・デ・ヨングの爆誕。目指せ、攻守コンプリート!
2-4. ミッドフィルダー
主な選手
右ボランチ(アンカー側)
- マルク・カサド
- エリック・ガルシア
- マルク・ベルナル
左ボランチ(左IH側)
トップ下
- ダニ・オルモ
- ペドリ
- ラフィーニャ
- パブロ・トーレ
役割
定点観測①でも書いたように、フリック・バルサのダブルボランチはそれぞれ明確に保持時の役割とプレーエリアが分かれています。
主に右側のボランチの選手がアンカー役(位置)、左側のボランチの選手は左IH役(位置)となります。そのため、保持時は逆三角形の中盤の形になることが多く、フリック・バルサの初期配置を4-1-2-3と表記する見方があるのは、これが要因となっています。そして、トップ下の選手はその逆三角形の空いているポジションである右IH位置に入ることが多くなります。
左ボランチ(左IH)の選手は内側にポジションを取る左WGの選手とレーンを共有することが多いため、関係性に応じて手前、ライン間、背後の3点を行き来する縦方向の可動域の広さが求められます。逆に右ボランチはアンカー役としてどっしりと中央に構える静的なプレーヤーが好まれます。
尤も、フリックは形に拘っているわけではなく、2-4で敗れたオサスナ戦では途中から右ボランチ(アンカー)をDFラインに落とし、左ボランチ(左IH)、トップ下(右IH)を3列目に落とす、3-2-5の形も試行していました。
上手くいかないバルサは前半途中から明確にエリックを中盤に落とし、3-2-5へ移行。両SBに幅を取らせ、トーレとペドリが構築役。そしてフェランとパウがライン間へ。しかしフェランもパウも全くライン間の住人ではないので効果的にボールも引き出せず。結果、エリア内への侵入すら叶わないことに。 pic.twitter.com/S3TD7lCGvT
— Hikota (@BarcaHikota) 2024年9月29日
非保持は4-4-2、ないしは4-4-1-1でセットしますが、先述の通りWGの外切りプレスがメインとなるため、トップ下の選手は相手のボランチを抑えるタスクがメインとなります。
その分ダブルボランチの選手は縦へのズレというよりも、手薄になるサイドをカバーするための横の可動範囲が広く求められるといったところでしょうか。
序列
アンカー役は先季に引き続き、バルセロナにとってウィークポイントになるはずでしたが、彗星のように現れたマルク・ベルナルが役割を完遂。彼が長期離脱を強いられた後は、IH役を務めていたマルク・カサドと本来CBのエリック・ガルシアがその穴を埋めています。
シャビ政権ではほとんど出番がなかったカサドですが、IH、アンカーどちらのタスクも難なくこなす適応度の高さを見せつけます。全体のバランスを見ながら自身のプレースタイルとエリアを調整できるセンスはラ・マシア出身ならでは。彼にアンカー役の目途が立ったのはフリックとしても大きなトピックです。今のカサドをスタメンシートから外す理由を見出すのは難しそうです。
アンカー役に入りそうな選手としては、フレンキーの名前も挙げられますが、ここまで2試合の途中出場ではIH側のボランチとして起用されています。練習ではガビとピボーテを組んでアンカー側を務めたという報道もありましたし、オルモ、ガビ、フェルミンとIH側の選手が続々と復帰していることから、フレンキーの起用法が今後どうなっていくかは注目ポイントとなるでしょう。
中盤残りの2枠は万全な状態であれば、ペドリ、オルモの2人が妥当なチョイスでしょう。
左ボランチを起点とする新たな役割を与えられたペドリは躍動。個人的には左サイドに回帰したのが大きなポイントではないかと思っています。過去2シーズンは右側でのプレーも少なくありませんでしたが、身体の向きからしても、右利きの選手は左側の方がよりゴールに直結するプレーが繰り出しやすくあります。ここ数年度重なる負傷に苦しめられたこともあり、プレータイムは厳密に管理されています。
ダニ・オルモはまだ3試合しかバルセロナでプレーしていませんが、違いを証明するにはそれだけで十分でした。ライン間で動きながらボールを引き取る技術が抜群に高く、縦方向への流れを淀みなく紡げる選手です。
中央でのコンビネーションを遂行するにおいてオルモの存在は大きく、ヤマルやペドリにとってもラ・ロハでのチームメートというだけあって、既に信頼してボールを預ける対象となっています。フィニッシュワークにおいても最も信頼できる中盤の選手との評価です。
負傷で出遅れたガビ、フェルミンが今後どこまでペドリ、オルモの牙城に迫れるかも注目の1つです。それぞれレギュラーの2人とは違う特長を持っていますし、ペドリもオルモもコンディションに不安があるタイプなので、チャンス自体はありそうです。このセクションは最も充実していますね。
ガビ、フェルミン、オルモの不在時に真価を発揮しきれなかったパブロ・トーレはやや厳しい立場に追い込まれたと言えるでしょう。
2-5. ウインガー
主な選手
右WG
- ラミン・ヤマル
- フェラン・トーレス
- パウ・ビクトル
左WG
役割
SBと同じく、ウイングの役割にも左右差があります。勿論、誰が起用されるかによって変わってくる部分もあるのですが、基本的には右はヤマル、左はラフィーニャが務めるので彼らを念頭に置いて書きます。
右WGは主に右大外レーン、右ハーフレーンを生息地とし、右SBやトップ下(右IH)とのコンビネーションや単独突破でチャンスメイクを図ります。いずれにしてもあくまでプレーエリアは従来の右WGの範疇に留まります。
反対に、左WGは自由度が高く、左大外レーンにはほとんど留まらず、左ハーフレーン、中央レーン、右ハーフレーンを股にかけ、中央の攻撃に厚みをもたらす”フリーマン”としての働きが求められます。
ここまで散々書いてきたように、フリック・バルサではWGが相手CBに外切りプレスをかけるところからプレッシングがスタートします。ショートダッシュ力と、適切な距離感の中でパスコースを切るセンスが非保持では求められます。物理的に難しい場面が多いのですが、必要とあらば、ダッシュしてサイド深部まで戻る走力も必要な要件となりそうです。
序列
先述の通りですが、公式戦6G5Aのラフィーニャと、5G5Aのヤマルが絶対的なレギュラーであり、現状彼らとそれ以外の選手のクオリティには大きな差があると言わざるを得ません。
ヤマルは最早説明不要ですが(ヤマルの記事は別途書いているので是非!)、ラフィーニャの左サイド/トップ下での大活躍は大きな驚きを持って受け止められています。昨季の後半戦に左サイドにコンバートされ、その兆しは見られていましたが、今季は想定以上の活躍ぶりを見せています。
サイドでの1on1から解放され、フリックにレーンを跨いで自由に動くことを許可されたブラジル人は、持ち前の走力をいかんなく発揮。決して足を止めない彼はあらゆる局面に顔を出し、チャンスを演出。鋭いトランジションで即時奪回の急先鋒にもなる暴れぶり。”献身的なフリーマン”として新たな役割を確立し切りました。
一方、2番手となるべきフェラン・トーレスはプレーのクオリティがなかなか上がりません。ボールが足につかず、ライン間でも大外でも効果的にプレーに関与することができていません。
他にも今季トップデビューしたパウ・ビクトル、ローンから戻ってきたアンス・ファティと枚数は揃っていますが、現状ではヤマル、ラフィーニャと同じ役割・クオリティを期待するのは難しく、レギュラー格の欠場時はオサスナ戦のようにチームの仕組み自体を微調整する必要が出てきますが、彼らの特長を引き出し切るには至っていません。
場合によっては人材過多の中盤から、偽WGとして何名かウイングのセクションに回ってくるかもしれません。ダニ・オルモ、フェルミン・ロペス、ガビ、ペドリには同ポジションでのプレー経験があります。
2-6. センターフォワード
主な選手
- ロベルト・レバンドフスキ
- フェラン・トーレス
- パウ・ビクトル
役割
今季のCF(=レバンドフスキ)の成功のカギは、役割とプレーエリアを絞ったことにあります。従来通り、相手のCBを背負いながらビルドアップの出口となるポストプレーは求められますが、無駄にサイドに流れたり、ハーフレーンに落ちることが減り、中央にいる時間が増えたように思います。
また、プレッシングの方法が変わり、CBへのプレス頻度が減ったことにより、非保持でのスプリント数が激減。①でも書いたように、保持・非保持両面で無駄なエネルギーをセーブできていることで、より重要なフィニッシュの局面にパワーとスタミナを割けていることがゴール量産(公式戦11試合12ゴール)の秘訣かと思います。
CFとしては信じて走ればそこにパスが出てくるという状況でもあり、パサーとしてはパスを出せばレバンドフスキが決めてくれるという信頼関係が完全に構築されています。過去2シーズンではペドリやヤマルといったスペイン人選手と連携の意図が合わずに険悪なムードが流れることもあっただけに、我々はバルサ3年目にしてようやく真のレバンドフスキの姿を目撃しているのかもしれません。
序列
こちらもレバンドフスキの独壇場であり、実質競争相手は存在しないセクションとなっています。ただ、既に36歳を迎えており、フリックもレバンドフスキのプレータイム管理には気を遣って早めにベンチに下げるシーンは見られます。そのため、昨季に比べると2番手以下の選手にもプレータイムはある程度回ってきます。
パウ・ビクトルはまだ起用法を探っているところかと思いますが、個人的にはフェラン・トーレスはボールスキルからしてWGとしてはもう限界が見えていると思うので、ここは一気に増量してCFとしてのプレーに重心を置くのはどうかと考えています。
決定力に物足りなさはありますが、愚直に背後を狙い続ける力はありますし、重さが加わって相手をある程度背負えるようになれば、そちらの方がチャンスがあるんじゃないかなーって思ったりします。ただ、ファン評価の低さに反してフリックはフェランを結構先発で使うので、何か別の可能性を見出しているやもしれませんがどうでしょう。
3. あとがき
「代表ウィークの度に1記事」がモットーの本企画ですが、大体1か月分の出来事を踏まえて書くので、どうしても分量が多くなってしまいますね。もう少しコンパクトにまとめたかったところでもありますが、書きたいことは全部書いておこうの精神で、全部書きなぐっています。
なんだか読み返してみると半分選手評価みたいな記事になりましたが、まあこれはこれでいいのかなと思います。10月時点での評価を、半年後の選手たちがどこまで覆してくれるのか楽しみではあります。
フリック・バルサは極めて順調に進行していますが、各ポジションごとに整理すると、やはりCB、左ボランチ、トップ下以外の選手層は薄く、欠けてはならないピースも多いので、主力の大きな離脱がないことを祈りながら楽しんでいくシーズンになりそうです。
9月~10月で感じたことは、とにかく試合数が多い。テレビで観ているこちらですら、もう試合?と思うくらい間断なく1週間3試合ペースで流れていく欧州のカレンダーは本当に恐ろしいです。既にバルセロナだけでなく、各クラブでバタバタと長期離脱者が出ていることはサッカー界全体で重く受け止めるべき事象でしょう。
そのようなご時世の中で「クラブが責任を負うべき」なーんて無責任丸出しの代表監督もいるわけですが、とにもかくにもクラブは自分たちがコントロールできる範囲で懸命に選手たちを守る必要は出てきます。それこそオサスナ戦のように、勝ち点を落とすリスクを負ってでも選手を休ませる勇気もチームに求められます。また、ファンも寛容にならなければなりません。
さて、早いもので10月の代表ウィークも終わりに近づいています。ピミエンタ監督のセビージャとの一戦の先には、フリックの古巣であるバイエルン・ミュンヘン、そして宿敵レアル・マドリーとのビッグマッチが待ち受けています。
バイエルンはここ数シーズン勝てていない天敵ですし、開幕から無敗だった昨季のシャビバルサがフォームを崩したのは前半戦のクラシコの敗戦からでした。前半戦最大の試練となる2連戦をフリックと若きチームはいかにして乗り越えるのか。今から楽しみでなりません。
フリック・バルサの更なる躍進を祈って、本記事の結びとしたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。