Hikotaのバルサ考察ブログ

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【定期連載】フリック・バルサ定点観測① 3冠監督の船出

 

1. 上々の船出

バイエルン・ミュンヘンでリーグ戦・国内カップ戦・CL制覇の3冠を達成したハンジ・フリックは、ドイツ代表での挑戦を経て、2024年の夏、バルセロナの監督に就任しました。

フリックの監督就任は2つの意味でバルセロナにとって異例の人選でした。1つ目が経歴。ペップ・グアルディオラルイス・エンリケ、シャビ・エルナンデスのようなクラブOBでも、スペイン人でもないというプロフィールは近年のバルサにおいて珍しいと言えるでしょう。2つ目が実績。これほどまでに欧州で成果を上げた監督がバルセロナの監督として迎え入れられることはこの20年なかったことでした。

期待と不安が入り混じる中、フリック体制1年目はスタートしました。

1-1. カンテラーノを積極登用したプレシーズン

昨季と同様、バルセロナである程度のトレーニングを積んだ後、アメリカでのプレシーズンツアーに臨んだフリックバルサ。プレシーズンの勝敗自体はあまり重要ではありませんが、マンチェスター・シティレアル・マドリーACミランと対戦して1勝2分(PK戦は除く)を記録。ビッグクラブ相手にまずまずの戦績でした。

主力に怪我人や合流遅れが相次ぐ中で、フリックの方針は選手起用に色濃く表れました。アメリカツアーでプレータイムの多かった上位5名は、マルク・カサド、パウ・ビクトル、セルジ・ドミンゲス、ジェラード・マルティン、マルク・ベルナル。いずれもシャビ政権ではトップチームに縁のなかった若手選手です。

アメリカツアー プレータイムまとめ

カンテラを信頼している、という言葉の裏付けのように積極果敢に新進気鋭の若手を試したフリックですが、こだわりがもう1つ見えたのがプレッシング。詳細は後述しますが、2-1で勝利をしたレアル・マドリー戦後のコメントにフリックの大方針が透けて見えます。

1-2. 全勝を飾った開幕4戦

スペインに帰ってきてからのジョアン・ガンペール杯でモナコに0-3で完敗したことで一抹の不安がよぎりますが、懐疑的な視線を吹き飛ばすのに時間はそれほどかかりませんでした。

メスタージャでのバレンシア、昨季国王杯で惨敗したアスレティック、そして鬼門バジェカスでのラージョ。開幕3戦は決して楽な組み合わせではありませんでしたが、いずれも2-1で勝ち切る地力の強さを見せつけると、昇格組のバジャドリード相手には7-0で大勝劇を演じ、リーガ唯一の4連勝を飾りました。

開幕からアンカーの役割でハイパフォーマンスを披露した17歳のマルク・ベルナルのシーズンアウト確定の負傷離脱という、悲しむべき事項はあったものの、ハンジ・フリックの新チームは上々のスタートを切ったと言えるでしょう。

 

2. 見えてきたフリック・バルサの全体像

2-1. 基本形

フリックの基本的な初期配置は4-2-3-1。4-1-2-3とも読み取れますが、バイエルン時代の踏襲というところも踏まえ、一旦4-2-3-1と表現しましょう。

フリックバルサ基本形(8月)

22-23の10月以降のシャビ政権においても、初期配置は4-2-3-1に近かったので、形としては大きく変化はありません。保持時にバルデ(左SB)が左WG化する左肩上がりの可変の基本的な仕組みも継続ということになっています。

2-2. 急増した中央突破(保持)

変化が見えたのは、ドブレピボーテへの保持の役割の与え方片方(主に右側)にはアンカー化、もう片方(主に左側)にはIH化するタスクを与えています。

シャビ政権では3-2-2-3のような形で保持時もドブレ運用が基本だったことに対し、フリックは左ピボーテに(シャビ政権ではトップ下に近い役割を担うことが多かった)ペドリを置くことで、積極的にライン間と手前を行き来させるシーンが目立っています。

その分、左WGにはラフィーニャ、フェラン・トーレスといったアタッカータイプの選手がセカンドトップに近い役割で、レバンドフスキをサポートする運用になっています。右サイドの仕組み自体は昨季とあまり変化はなく、ヤマルに自由を与えるべくクンデが後方からサポートする形です。エース、レバンドフスキに起こった変化については後述します。

保持時の配置・役割イメージ

プレー面で大きな変化といえるのが中央突破の試行回数の多さ。シャビ政権に比べると速攻・遅攻問わず、細かいショートパスとダイレクトプレーを交えたコンビネーションで中央のレーンを崩しにかかるシーンが急増。中央を狙う姿勢を持つことによってサイドからの崩しも上手くいく好循環にチームは入っています。

特に輝きを放っているのがトップ下・左WGでプレーするラフィーニャ。右サイドを離れ、相手SBとの1on1の回数は減ったものの、持ち前の走力とオフザボールの巧みさをふんだんに活かし、ペドリ、ヤマルやクバルシといった優秀なパサーから最高のパスを引き出し、チャンスを量産。フリック体制での地位を早くも強固なものにしました。

2-3. こだわりのプレッシング(非保持)

フリックバルサの現時点でのプレッシングのやり方は大まかに以下の通り。

①まずはWGが外切りで相手CBにプレス

②相手のボランチはCF・トップ下が消す

③相手SBにはSBが縦ズレでアプローチ

④SBが縦にズレて生じるスペースはボランチ・CBがケア

プレッシングイメージ

全体的にラインは常に浅めであり、高い位置からプレッシャーをアグレッシブにかけ続けるのがフリックの好みです。恐らく近年のバルサで最も「攻撃的な」非保持と言えるのではないでしょうか。

フリックのこだわりはSBのバックアッパーの人選に見出すことができます。昨季爪痕を残したエクトル・フォルトや、プレシーズンで輝きを放ったアレックス・バジェ(ローン移籍済)といったテクニカルな選手よりも、よりフィジカルに長けたジェラール・マルティンが重用されているという事実は、フリックがSBの要件としてハイプレスの実現のために上下動に強く、屈強な選手を求めていることを端的に示しています

ボールを高い位置で奪えれば当然チャンスに繋がります。奪った際に最前線にいるのはスピード溢れる両WG。一気にゴールを強襲しやすい形と言えるでしょう。

一方、敵陣で誰かがプレスに出ていくのが遅れたり、パスコースを限定し切れなかっただけで一気にピンチに繋がりかねない諸刃の剣でもあります。いつの間にか6枚で守っているシーンが見られることもあります。

とはいえ、リスクはフリックも当然承知していると思います。ハイリスクであっても、ハイリターンの旨味を知っているからこその采配なのではないでしょうか。今のところ収支はプラスに傾いており、多少の失点は覚悟しつつ、全員が共通認識を持ってプレーに臨めている効果は絶大なものがあると感じます。

2-4. エースレバンドフスキの起用法

今季の個人的な注目点の1つが36歳を迎えたエースに対してフリックがどのように向き合うかという点でした。その課題に対して早くもフリックは答えを出しました。レバンドフスキの負担減です。

まずは保持時。今季のレバンドフスキはむやみに動きません。昨季はボールを求めて左サイドに落ちるなど、幅広く動き回っていましたが、今シーズンここまでは多くの時間を中央レーンで過ごし、チャンスを窺っている様子が見られます。

次に非保持。前述の通り、ファーストプレスの役割から解放され、フルスプリントの回数が減ったと思われます。昨シーズンは勇んでプレスに走るも、周りがついてこず、天を仰いでセカンドプレス・プレスバックを止めてしまうシーンが見られました。

保持・非保持共に言えるのは無駄な動きがそぎ落とされたということでしょうか。エネルギーの浪費を避けることで、今シーズンはよりゴール前でのストライカーの仕事にパワーを使えている印象があります。開幕4試合で4ゴール1アシストを記録したは偶然ではないでしょう。恐らく信頼しているフリックとしっかりと腰を据えて話したのではないでしょうか。

本人も休む重要性は理解しているようですし、ベンチスタート・途中交代も受け入れながらバルセロナでのシーズンハイを狙っていってほしいところです。

 

3. 代表ウィーク明けの論点

3-1. アグレッシブな非保持はビッククラブ相手に通用するか

フリックがこだわる両WG外切りプレスからなる攻撃的非保持はメリットがある一方、デメリットもあります。

WGとSBの距離が大きく空いてしまうケースが散見され、ファーストプレスを外されると、一気にサイドで数的不利に陥ってしまうのです。CBをケアするWGがサイド深部まで下がるのは物理的に難しく、SB1人が2人を相手に守らなければならないシーンが多く見られます。

事実、バレンシア戦とラージョ戦はサイドで数的優位を作られ、良い形でクロスを上げられたところから失点を喫しました。明確な弱点であることは開幕4試合で確認できました。

youtu.be

このやり方の成否のカギを握るのは、CBとピボーテのカバー範囲の広さです。無論、プレスのタイミングや運動量の担保も重要なポイントですが、100発100中でプレッシングがハマることなどあり得ません。ファーストプレスを外され、自陣に一気に持ち込まれる現象は相手のレベルが上がるほど精度と回数が増していくものでしょう。

その前提に立つと、開幕3試合で背後のスペースを持ち前の危機察知能力を持って鬼のようにカバーしていたマルク・ベルナルの負傷離脱が及ぼす影響は小さくないと考えられます。ただでさえ3列目の層が薄い中で、どのように戦力をやりくりしていくのかは注目したいところです。

多少の失点は覚悟しつつも、火力で攻め勝つという方針がビッグクラブ相手にどこまで通用するのかは今後見守っていきたいところです。強豪相手に弱腰になる、というイメージは今のところフリックに対しては湧かないですね。

(昔書いた記事によると、この最悪の試合でバルセロナの唯一の攻め手はSB裏だったらしい。方針は一致している。)

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3-2. フレンキー・デ・ヨングとの向き合い方

先述した通り、現時点ではフリックのドブレピボーテにおいてはアンカー化する選手とIH化する選手の2つの役割がはっきり分かれています。さて、やり方が変わらないとしたらフレンキー・デ・ヨングはどちら側の選手として起用されるのでしょうか

これまでのフレンキーのバルセロナでのプレーを振り返ると、やはりプレーが安定するのは保持・非保持共にドブレピボーテの左サイド寄りの位置。シャビの元でブスケツの横でプレーしていた時が最も機能しているように見えました。個人的にはIHでもアンカーでもないと思っています。

フレンキーは圧倒的な単騎性能と長距離をドリブルで運べる馬力のあるタイプで、所謂パスでゲームを作る司令塔ではなく、ソリスト色の強い選手です。なので、どちらかと言えば、上下に幅広く動けそうで各局面に関わりやすいIH化側のピボーテの方が適性があるように思います。

一方で、ベルナルの負傷により手薄なのはアンカー側のピボーテ。これまで何度かフレンキーのアンカータスクは試行されてきましたが、期待以上の成果には繋がっていません。彼は基本的に動的な選手で、動かしてこそ価値が最大化されるからです。

ただ、前項で述べたように、フリックのプレッシングを担保するにはピボーテの選手の幅広い守備範囲が求められ、その点フィジカルお化けのフレンキーの需要は高いものがあるでしょう。

これまでどの監督も失敗してきたフレンキー・デ・ヨングのアンカー化計画にトライするのか、それとも違うソリューションを見せてくれるのか。フリックであれば、何か新しい可能性にチャレンジし、今までにないフレンキーの輝きを引き出してくれるのではないか。それともやはりポテンシャルの全てをバルセロナで引き出し切るのは難しいのか。期待と不安を持って復帰を待ちたいと思います。

(非常に状況が不穏ではありますが...)

 

4. あとがき

新監督は変化が出るので見てて面白いですね。そしてやっぱりフリックは優秀な監督だと思います。頭のおかしな挙動ばかりしている近年のバルセロナに、このレベルの監督が来てくれた幸運に感謝するばかりです。

(ドイツ代表の監督を早々に退いたからこそ招聘できているというのは否定できないので、日本代表の面々にも非常に感謝です。)

とにかく今後が楽しみです。まずはジローナ戦。卓越したボール保持の技量を誇る昨季3位のチームにどれだけやれるか注目したいですね。

唯一、現時点でフリックに愚痴を言いたいのはベルナルの件。戦術的に大切な選手だっただけに、プレータイムには細心の注意を払うべきだったのではないでしょうか。クオリティは17歳のそれを遙かに超えていましたが、だからといって負傷リスクも他の10代の選手よりも低いわけではありません。今後ヤマル、クバルシで同じことが起きないとも限らないのが怖いところです...。ベルナルの快復を祈ります。

 

こんな感じで試合のない代表ウィークのたびに定点観測を1本ずつ書き続ける、だったら何とか続けられるのではないかと思って連載を始めてみました。

代表ウィークは10月、11月、3月。年末年始も試合が止まるので12月も書くとして、シーズン終わったタイミングでも1本書く、としたらとりあえずこの記事も合わせて1シーズンで6本書くことになりますね。割と妥当なペースかもしれません。

ということで次回は10月の代表ウィーク予定。お楽しみに!

 

最後までお読みいただきありがとうございました。