Hikotaのバルサ考察ブログ

主にFCバルセロナが好きです。他サポの方大歓迎です

【考察】シャビ・バルサ2年半の総括

【目次】

 

1. 2年半の振り返り

1-1. クライシスに降り立ったレジェンド(21-22シーズン)

21-22(後半戦)基本フォーメーション

リオネル・メッシの退団がクラブにとっての大きな分水嶺になる、ということは彼が退団する何年も前から確定していたことでした。問題はそれがいつどのタイミングになるのかということだったのですが、別れの日は最悪の形で訪れることになりました。

クラブの危機的な財政危機によって、双方が望まないタイミングでの突然の退団、そして同シーズンの大きな補強は不可能に。メッシ後の旗手として希望を一身に集めていたアンス・ファティは前シーズンに負った大きな負傷の影響でリハビリ室を離れられず。ウスマン・デンベレは相変わらず負傷離脱と覇気のない緩慢なプレーを繰り返し、前シーズンに適応の兆しを見せたアントワーヌ・グリーズマンアトレティコへ帰郷。

シーズン開幕直前に空いた大きな穴を埋める要素はどこにもありませんでした。メッシの存在を前提にチームを作っていたロナルド・クーマン監督にこの状況を打開する策は打てず。悲惨な成績と共にクーマン政権は終わりを迎え、シャビ・エルナンデスの時代が始まりました。

ピンチのバルセロナがシャビを頼るのは初めてのことではありません。2020年にエルネスト・バルベルデを解任した時にも白羽の矢が立ちましたが、このタイミングではシャビ側が固辞。その僅か1年半後の再オファーを受けた形でシャビはバルセロナの歴代の監督一覧に名を連ねることになりました。

第5節から引き継ぐ形となったCLでの敗退(ベンフィカとドロー/バイエルンに敗戦)と、年明けのスーペル・コパクラシコでの敗戦で苦杯を舐めたものの、どん底の状態に見えたバルサはシャビの就任により確実に自信を取り戻したました。

後半戦に入ると、国内最大のライバルであるマドリードの2チームに4得点の大勝を果たすなど、力強いパフォーマンスを披露。クーマン政権のリーグ戦戦績が11試合4勝3分3敗で9位まで転落したことを考えると、最終順位を2位まで押し上げたことは復権への大きなアピールとなったかと思います。

プレー面でのトピックは、ウインガータッチライン際に張らせ、ピッチを広く使い、サイドからの崩しと押し広がった中央のスペースを強襲する古典的なバルサスタイルへの回帰を選択したこと。ポジショナルプレーの基礎がなってないとして選手が干されるなどのエピソードから、シャビには明確なフィロソフィーがあるようにこの時点では思われました。

力強く踏み出したかに見えたシャビ・バルサですが、後半戦にはもう1つの躓きが。CL敗退によって回ることになったヨーロッパリーグのフランクフルト戦で、2戦合計3-4の敗北。徹底的に対策を打たれての完敗でした。次シーズンに宿題を残し、1年目のシーズンは終了となりました。

 

1-2. ギャンブルの表裏(22-23シーズン)

22-23基本フォーメーション(最終形)

前シーズンに見えた希望と、無冠という結果を受けて、フロントとシャビは大きな賭けに出ます。未来の資産と引き換えに、大型補強を敢行。ロベルト・レバンドフスキラフィーニャ、ジュール・クンデを総額1億5000万€で獲得。そしてフリートランスファーアンドレアス・クリステンセン、フランク・ケシエ、マルコス・アロンソの実力者も確保。移籍市場における”レバーを引く”という表現はここで爆誕しました(ほとんどバルサでしか使わなそうですが...)。

サイドのレーンを主戦場にするウインガーラフィーニャ)と、クロスに滅法強い一流ストライカー(レバンドフスキ)の獲得でシャビのスタイルはさらに発展するかに思われましたが、前半戦から躓きを見せます。個人の質で問題を解決できないレベルの相手(マドリー/バイエルンクラス)になると途端に攻撃がノッキングし、バランスが崩れる現象に抗うことができず、クラシコでの完敗と、CLでの2年連続のグループステージでの敗退を喫してしまいます。

シャビ政権でDFリーダーとして成長したロナルド・アラウホの前半戦離脱という不運な要素はあったものの、いきなりチームの在り方の見直しを迫られたシャビはここで方向転換。ウインガーを1枚削り、新進気鋭のインテリオールのガビを左WGで起用。4人の中盤を同時起用することによって、保守的なボール保持と徹底されたトランジションを武器としたソリッドな戦い方を実現しました。

右SBには本来CBのクンデを起用し、左SBには攻撃面で絶対的なクオリティを誇るジョルディ・アルバではなく、より若く爆発的なスピードと対人能力に優れたアレハンドロ・バルデを起用し、アラウホ、クリステンセンとの鉄壁の4バックを形成。リーグ戦での失点数は僅かに20に留まりました。

”ローリスク・ローリターン”の戦法により、安定感を取り戻したシャビバルサは面白いように国内で勝ち点を重ねます。結果、スーペル・コパとラ・リーガの国内2冠を達成。一発勝負のスーペル・コパはともかく、リーグ戦のタイトルをメッシ退団から僅か2年で奪い返せたことは、ギャンブルの成果として望外の結果と呼べるのではないでしょうか。

一方で、シャビの保守的なサッカーには批判の声も挙がりました。初年度に見せた華麗なパスワークは影を潜め、ショートカウンターとロングボールを繰り返すチームのスタイルには不満が募り、まるでイタリアのカテナチオのようとの表現もされました。

アンチ・シャビにさらに拍車をかけたのがヨーロッパでの失態でした。2度のCLグループステージでの敗退(1度目は彼だけの咎ではありませんが)と、2度のELでの敗北は彼の指導者としての実力に大きな疑問を抱かせました。リーグを獲ったとはいえ、リスクを負った投資に見合った成果が出たかどうかは議論の余地があるでしょう。

スタイルの発展と、ヨーロッパの舞台で結果を残すこと。以上を次シーズンの至上命題として、2年目のシーズンは幕を閉じます。

 

1-3. ハイリターンへの昇華失敗と未来への糧(23-24シーズン)

23-24基本フォーメーション(最終形)

3年目のシーズン。”ホップ・ステップ・ジャンプ”における”ジャンプ”のフェーズに入れるのか、期待が集まるシーズンとなりました。しかし、シャビにとって最大の理解者であったセルヒオ・ブスケツ勇退と、目をかけ信頼していたウスマン・デンベレのショッキングな退団でチームは否応なしに変革を迫られます。

欧州王者キャプテンのイルカイ・ギュンドアンをフリーで確保した以外は、目ぼしい補強の発表がなかなかなかったバルサですが、移籍期間最終日にマンチェスター・シティからジョアン・カンセロ、アトレティコ・マドリーからジョアン・フェリックスのWジョアンをローンで獲得。この獲得は23‐24のバルセロナにとって大きな分岐点となりました。

前述したように22-23シーズンのバルセロナは守備の安定感とトランジションの徹底で堅実に勝ち星を重ねてきました。その組織に、前チームで非保持の不安定さとトランジションの緩さを指摘され続けたポルトガル人の2人を入れることは劇薬以外の何物でもありません。(注釈しておくと、カンセロとフェリックスの確保はシャビの意向というよりは代理人メンデスとラポルタの個人的な関係に依る所が大きいものでした。)

ただ、より大きな成果を得るためには昨季からの発展が不可欠であり、チームに新しい風が必要だったのも事実。シャビが彼らをチームに組み込むことで、どのようなトライをするのか注目が集まりました。

結論から言うと、そのトライは失敗に終わります。昨季と比べて非保持は大幅に緩くなった一方、攻撃面でのプラスアルファはエースレバンドフスキの絶不調と、ブスケツデンベレの退団の影響がたたってむしろマイナス方面に。”ローリスク・ローリターン”から”ハイリスク・ハイリターン”への昇華を果たすことは叶いませんでした。

リーグ戦はマドリーだけでなくアトレティコ、大きな飛躍を遂げたジローナの後塵を拝すことになり、CLでは組み合わせに恵まれ、不安定ながらも何とか3季ぶりのグループステージ突破を果たした前半戦ですが、チームを取り巻く負のスパイラルは抑え切れず、”魔の1月”を迎えます。

年明け早々のスーペルコパでのクラシコに完敗、コパ・デル・レイでのアスレティック戦での敗戦、そしてリーグ・ビジャレアル戦の5失点敗北...。責任の重さに耐えかねたシャビはビジャレアル戦の直後にシーズン終了後の退任を発表。どん底までチーム状態は落ち込みました。

しかし、ここでサプライズが起きます。次節のオサスナ戦から何と公式戦13試合無敗を記録(10勝3分)。地獄にいたはずのバルサは突如として復調を遂げます。シャビの辞任ブースト、という要素も幾分かあるかと思いますが、ピッチ上の現象として大きかったのがパウ・クバルシの出現でした。突如として現れた17歳のCBがチームの全てを変えてしまったのです。

的確にゲームを読む力と、ポジショニングの巧みさ、圧巻のフィード能力を兼ね備えたCBの存在によりチームは力強さを取り戻しました。彼の出現は前半戦低調なプレーに終始したアラウホの復調を促し、強度不足の中盤にクリステンセンを回すこともスカッド運営上可能になりました。

”クバルシ効果”に後押しされ、そのままの勢いでナポリを下して最低限のノルマであったCLベスト8に進出すると、ベスト4を賭けたパリ・サンジェルマンとの1stレグも撃ち合いを制し、3-2で先勝。この時期は全てのクレが夢を見ました。

しかし、現実はそこまで甘くなく。PSGとのリターンマッチはアラウホの退場もあり、大敗を喫すると、リーガ逆転優勝に向けて一縷の望みをかけて挑んだクラシコも敗戦。23‐24シーズンの無冠が決まり、一度辞意を翻意させ、続投を発表したシャビを解任するという意味不明な珍事もあり、残念な形でシャビ政権は終焉となりました。

失敗となった23-24シーズンでしたが、その一方で新たな才能が芽吹いたシーズンでもありました。前述のクバルシに加えて、公式戦50試合に出場し、7G7Aを記録した神童ラミン・ヤマルと、彗星のように現れ、チーム2位の得点数を記録したラッキースターフェルミン・ロペス。次代を担う選手たちの登場は1つのトピックではありました。

 

2. 総評

2-1. ”メッシ後のバルセロナ”をどう評価するべきなのか?(成績・プレー面)

成績面

2年半の在任期間で、リーガ制覇1回とスーペルコパ1回のタイトル、欧州の舞台ではCLベスト8が1回、グループステージ敗退が2回。ELではベスト8が1回、ノックアウトラウンドプレーオフ敗退が1回。本来、バルセロナに求められる水準と単純比較すると成功とは言い難い成績だったかと思います。

特に欧州での勝負弱さというのは、2018年のローマ戦から続く悪い流れを断ち切ることはシャビに期待されていた要素の1つだったので、評価査定としては大きくマイナスになってしまうのは致し方ないでしょう。2年連続でバイエルンと同組になった不運さもありましたが...。

一方で、単純な成績で評価しきれない部分もあります。先述した通り、シャビが就任したのは”メッシ後”という近年のバルセロナで最も難しいタイミングだったのも事実です。15年以上、攻撃のすべてを依存し、メッシの存在を前提にチームを構築してきたクラブにとって、最大のレジェンドの退団の影響は計り知れないものがあったはずです。

個人的には、もう少し低迷してもおかしくなかったと思っていました。近年、ミランインテルリバプールなどのメガクラブがリーグでの復権までにかなりの時間を要したのを見てきましたし、欧州サッカーを見始めた頃は最強だったマンチェスター・ユナイテッドはリーグのタイトルから10年以上遠ざかっています。

と、するとメッシ退団+未曽有の財政難という難しい状況下で、リーガの奪還をいち早く果たしたことは大きな成果だったのではないかと個人的には思います。メジャータイトルの獲得がクラブにもたらす効果は計り知れないものがあります。”メッシ後のバルセロナ”をどのように捉えているかで、ここの評価は分かれてくるのではないでしょうか。

プレー面

プレー面の評価はどうなるでしょうか。”レバー”のプレッシャーにより、22-23に方向転換したことは致し方なかった、むしろ英断だったと思います。バルセロナらしくない、との批判を甘んじて受け入れつつもリアリスト路線でリーガのタイトル戴冠まで導いた手腕は評価されるべきでしょう。

一方、大きな進化が求められた23-24シーズンで、新しい価値をチームに提供できなかったことはシャビの監督としての手腕の限界値を示しているように思います。勿論、難しい状況・スカッド運用だったと思いますが、11月~1月の目を覆わんばかりのパフォーマンスは看過できないものがありました。本来の武器だったプレッシングの強度は下がり続け、ビルドアップのクオリティの向上はクバルシの出現を待たざるを得ませんでした。

23-24のシャビ・バルセロナは完全にアイデンティティを失っており、何を武器にし、どのように勝っていくのか地図が見えない状態でした。シャビ自身も恐らく迷っていたのではないでしょうか。個人的にはカンセロを中盤化する保持時2-3-5の形をもう少し見てみたかった気持ちがあります。

崩しの局面で「自分の思い通りのパスが出てこないことがある」の嘆きから察するに、恐らくシャビの頭の中に絵はあったのでしょう。しかし、監督の仕事は自分の頭の中にある設計図を嚙み砕き、現実とのすり合わせを行ったうえで、丁寧に言語化した上でトレーニングで選手に落とし込むことだとすれば、その部分が欠けていたと言わざるを得ない部分もあるのではないでしょうか。

振り返ると、シャビにとって最も大きな誤算だったのはペドリの稼働率でしょう。就任当初からゴール数のノルマを課すなど、チームのコアとして計算していただけに、3年目になっても肝心な時に彼がいなかったのは特に崩しの構築において難しい部分だったのだろうなと思います。”メッシ後”の崩しの質は彼が担保するはずだったので、全プレータイムの半分程度しか消化できなかったは痛恨だったと言えるでしょう。

いずれにせよ、23-24は”メッシ後”3年目であり、シャビに監督として引き出しが足らなかったのは事実かと思います。同年代で監督として大きな成果を収めているシャビ・アロンソと比較すると、シャビはバルセロナ以外での経験が乏しく、スペインとカタールのサッカーしか知らなかったことがともすると影響したかもしれません。あの偉大なペップも選手時代晩年を過ごしたイタリアでの経験が大きかったと言っています。

(たられば、になってしまいますが、22-23シーズンにリアリスト路線を選んでなかったらどうなっていただろう、はふと考えることもあります。)

 

2-2. シャビ・チルドレンの飛翔(育成面)

シャビ・バルサを語る上で欠かせないのが若手の積極登用でしょう。シャビが抜擢したという部分と、状況的に若手を使わざるを得なかったという2面の要素はありましたが、2年半で多くの選手がデビュー、主力として成長しました。

大きく飛躍を遂げたカンテラーノはガビ、バルデ、ヤマル、フェルミン、クバルシの5人。彼らはバルサの次代を担う選手たちとして、希望の光として輝いています。また、DFの核として大きく成長したアラウホ、(結局退団して忸怩たる思いですが、)シャビによって大外ウインガーとして覚醒したウスマン・デンベレなど飛躍した中堅選手もいます。

特に印象的だったのはバルデとフェルミンの抜擢でしょうか。前者はレジェンドのアルバが君臨していた左SBのレギュラーの座を与え、多少のミスには目を瞑りながら1年間レギュラーとして運用。フェルミンは誰にも期待されていなかったところからシャビが拾い上げ、頼れる準レギュラーとして多くの試合に送り込み、結果シーズン11ゴールを記録し、クラシコやCLでもゴールを挙げるほどの選手として成長を促しました。

シャビの美点の1つが、選手を責めず自信を植え付けるマネジメントでしょう。選手のせいにはせず、全て審判に責任を押し付ける言動(これはこれで議論がありそうですが)に代表されるように、とにかくシャビのチーム作りは家族感が大事にされており、経験の浅い選手たちが伸び伸びプレーできる環境であったと思います。

シャビ・チルドレン達の躍動はこの2年半の大きな楽しみの1つであり、今後も我々の希望で在り続けると思います。

 

2-3.  見逃せなかったアイコンとしての価値

もう1つ、シャビを語る上で挙げたいのが、元レジェンド選手としての価値です。メッシという最大のアイコンを失ったバルセロナにとって、格を保つために、新たにクラブを象徴する存在が必要だったという事情はあったと思います。

2023年6月に通称”お金稼ぎツアー”として、シーズン直後の強行軍でバルセロナが東京でヴィッセル神戸と試合をしたのですが、その試合の選手紹介で一番歓声があがったのはシャビ監督の紹介時でした。改めてシャビの知名度の高さ、人気を肌で感じた瞬間として記憶しています。

今の若手にとってシャビはテレビの前で見ていたスター選手の1人だったでしょうし、シャビが監督だったから残留した選手、加入した選手もいたのではないでしょうか。2023年に加入したイルカイ・ギュンドアンがその1人で、恐らくアイドルだったシャビがいなければ彼はバルセロナを選ばなかったのではないかと言われています。

この時期のバルセロナにとっては、神輿の上に乗れるだけの存在が必要で、明確なスター選手を獲得するのが無理なのであれば、クラブ愛によって低水準の給与でその役回りを引き受けてくれるシャビはまさにうってつけの人材だったという黒い事情はあったのではないかと想像しています。そういった意味で監督としてのシャビにはアイコンとしての価値も含まれていたわけです。

 

3. 所感

3-1. レジェンド監督の苦悩に思う

「現役時代の実績で優遇って、そうだとしたら...そっちのほうがイバラの道だぜ」

「それで指導者として失敗したら、一生笑いものになるんだ。一生な」

人気サッカー漫画の『アオアシ』の登場人物、福田達也監督の台詞です。福田監督は、現役時代日本代表にも選出され、ラ・リーガの舞台でも活躍したものの、膝の大けがによって早期引退を強いられ、指導者の道を早くから志すことになった(という設定の)人物です。上記の台詞は、別の指導者(選手としては大成できなかった)から「お前は現役時代の実績で(ライセンス取得の観点で)優遇されるからいいよなあ」と煽られた際の返答です。詳しくは是非漫画を読んでみてください。

アオアシの既刊一覧 | 【試し読みあり】 – 小学館コミック (shogakukan-comic.jp)

この2年半のシャビ・エルナンデスの総評としては、プレイヤーとしての功績ほど偉大な監督ではなかった、ということになると思います。現役時代は4度のCL制覇と、1度のW杯制覇、2度のEURO制覇を中心選手として成し遂げ、取れるチームタイトルを全て獲得しました。それに比べると、監督としての2年半で獲得した大きなタイトルはリーガ1つのみ。現役時代が偉大過ぎるがゆえですが、物寂しいものがあります。

シャビが監督をやっているのに、こんなつまらないサッカーなんて...という嘆きが在任中多く聞かれました。でも、頑固で偏屈で、負けた後には言い訳ばかりで、バルサへの偏愛に溢れたシャビの姿は現役時代とちっとも変わっていなかった気もします。

結果が出ない中で、見苦しい部分もあったかもしれません。選手としては大好きだったけど、もう監督を辞めてくれと心から願ったファンも多いかと思います。それでも、クラブのために苦しい状況で監督の役を引き受け、次代を担う若手を導き、チームのプレーが上手くいかず苦悩し、一度は愛するクラブのために離れる決断をし、それをクラブのために翻意し、裏切られてなお、クラブのために身を引いたレジェンドを僕は非難することができません。

シャビは少なくともレジェンドとして「笑いもの」ではありませんでした。元レジェンド選手故のプレッシャーと闘いながら、最後までクラブのために尽くし、身を粉にして働きました。これまで書いてきたように、足りなかった要素は多分にあったかと思います。ただ、ここまで書いてきた要素から、”メッシ後のバルセロナ”の監督はシャビでしか務まらなかったのではないでしょうか。感謝しかありません。

だからこそ、シャビはあのような扱いでクラブを追い出されるべきではありませんでした。一度辞意を固めた人間を翻意させておきながら、自分たちの都合が悪くなったら相手のせいにして首を切るのは誠意とはあまりにかけ離れた行為でしょう。バルセロナのフロント陣こそとんだ「笑いもの」です。このようなことを繰り返していたら、いつか必ずバルセロナは大きな報いを受けると思います。

 

3-2. シャビ・チルドレン達に託されたもう1つの評価

シャビの2年半のミッションが、「クラブのアイデンティティの1つであるバルサスタイルを復活させ、欧州の舞台で勝てるチーム作りをする」であったとすれば、彼の監督としての挑戦は清々しいほどの失敗と言えるでしょう。

しかし、その前段階となる「”メッシ後”のクラブを持ち直し、次代への礎を築く」というミッションであればどうでしょう。見え方も変わってくるのではないでしょうか。

シャビは変革者ではなかったかもしれませんが、繋ぎの監督としては極めていい仕事をしたと言えるでしょう。最低限の競争力を担保しながら、カンテラーノに自信を植え付け、主力に育て上げた功績は大きいものがあります。

幸いなことにシャビの後任はあのハンジ・フリック。ドイツ代表では失敗したものの、バイエルン時代に3冠を達成するなど、欧州屈指の実績を誇る名将を呼び寄せることができました。バルセロナも彼のバイエルンにはけちょんけちょんにやられました。

とすると、クーマンが更地にした土地を、シャビが耕し、種を蒔き、フリックが大きな収穫を得るとすれば、シャビの評価は(ついでにクーマンの評価も)現状とは大きく違ったものになるでしょう。

成否の鍵を握るのは、シャビ・チルドレン達です。ガビ、バルデ、フェルミン、クバルシ、そして今やバルセロナとスペイン代表の顔となったヤマル。彼らはフリック政権でも中心となっていくべき選手達です。彼らがさらなる成長を遂げ、欧州のタイトルを掲げる時こそ、シャビの満足げな表情がようやく見られるのかもしれません。彼らのこれからのキャリアの成功を信じています。

 

4. あとがき

シャビ政権最後の試合から2ヶ月以上が経過し、ようやくこの記事を書くに至りました。僕にとって、シャビの退任は消化するのが難しかったのが本音です。

僕がバルセロナを応援するきっかけとなったのはスペインが優勝したEURO2008でした。あの大会で躍動したのがシャビ、イニエスタプジョルバルサ所属の選手たちで、その翌年からペップ・バルサの黄金期がスタートしたので、自然と強いものに惹かれていった結果、僕はバルセロナのファンになりました。

シャビは大きなきっかけを作ってくれた1人であり、僕にとって非常に思い入れの深い選手でした。だからこそ、シャビの監督就任は大きな喜びでもあり、不安でもありました。このまま偉大なレジェンド選手のままでいてほしい気持ちも心のどこかであったやもしれません。

僕がシャビを論ずる上で、現役時代のバイアスがかかって贔屓目に評価してきたことは否定のしようがありません。できるだけフェアでありたいと思いますが、シャビじゃなかったらもっと僕は批判的だったのかもしれませんね。

監督としてのシャビを追うのは楽しくもあり、しんどさもあり、色々と複雑な2年半だったなと思います。繰り返しになりますが、この難しい時期に監督を引き受けてくれたことに、本当に感謝しかありません。

またいつかバルサに戻って来てね、はとてもじゃないけど言えません。あれだけの仕打ちをクラブから受けておいて、それはおこがましいリクエストだと思うからです。でも、シャビなら無償のクラブ愛をもって、精一杯応えるんだろうなという気もしています。

どこかで指導者を続けるのか、解説者やどこかのクラブのフロントなどもっと違う仕事なのか、はたまた愛するクラブのピンチをまたいつの日か救う時が来るのか。次のキャリアがどうなるのかは皆目見当がつきませんが、シャビの今後の人生での幸運を祈って結びとしたいと思います。

シャビ監督、本当にありがとう!

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。