その才能はどこまで届くのでしょうか。
2020年10月28日。場所はトリノ、ユベントス・スタジアム。イタリア王者を翻弄したのは左サイドに入った小柄な選手でした。この日残したスタッツはパス成功率95%、ドリブル成功数5、デュエル勝利数10。圧巻のパフォーマンスを披露しました。
若者の名前はペドロ・ゴンザレス・ロペス。通称ペドリ。18歳になったばかりの彼は眩いばかりの輝きを放っており、今季のバルセロナを語る上で欠かせない選手の1人です。
イニエスタ+ラキティッチのタスクを
昨年の夏に2部のラス・パルマスから加入したペドリとクレの出会いは昨夏のプレシーズンマッチ、ヒムナスティック戦でした。クーマン体制の初戦にトップ下として抜擢されたペドリはそのプレーぶりで観るものに驚きを与えました。目を引いたのはボールを持っている時のスキルやテクニックではありません。
この日、チームの大エース、リオネル・メッシのスタートポジションは右サイドハーフ。昨季と同じポジションですが、彼は現代のサッカー選手で最も守備で走る量の少ない選手の1人として知られています。
メッシを右サイドに入れた場合、彼が守備に戻ってこない分、右サイドの守りを強化する構造をチームとして作らなければなりません。しかし、昨季までメッシの背後をカバーしていたラキティッチやビダルというスーパーな選手は揃って退団。最早メッシの右サイド起用は不可能になったかに思われました。
しかし、このヒムナスティック戦でメッシの背後を埋めたのは他でもないペドリでした。彼はトップ下が定位置ながら、ボール保持の局面では右サイドのメッシと頻繁に位置を変えながら攻撃。そしてボールは非保持時は4-4-2の中盤の右サイドまでスライド。
今でこそペドリは「イニエスタの再来」と呼称され、賞賛を浴びているものの、このお披露目時点で見せたのはラキティッチがそれまでやっていたような「構造的に生まれてしまうスペースを的確に埋める能力」であったのです。
線が細く、17歳という年齢もあって、「技術はあっても守備面で使い物にならないだろう」という先入観を初戦であっさり壊したペドリ。期待が確信に変わったのは第7節のクラシコでした。
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そこまでスタメンのなかったペドリをクーマンはいきなり先発に抜擢。システムは4-4-2に変更され、ペドリは右サイドハーフとして世界最高峰の舞台にデビューしました。クーマンがペドリを起用した意図はマドリーのストロングポイントである左サイドの攻撃を防ぐこと。スピード溢れるヴィニシウス・ジュニオールとフェルラン・メンディを抑え込むことが彼と同じく新加入のセルジーニョ・デストの仕事でした。
結果、20歳と17歳のコンビは仕事をほぼ完遂。試合には敗れてしまったものの、ヴィニシウスにほとんど仕事をさせない徹底ぶりで、クーマンの期待に応えました。この時点で守備で計算ができる選手という評価は揺るぎないものになります。
ここからペドリは先発出場の数を増やすことになります。コウチーニョ、アンス・ファティの負傷離脱も追い風となり、絶対的なレギュラーへ。
当初は「スペースを埋める守備」に非凡な才能を発揮したペドリですが、徐々に「ボールを奪う守備」でも存在感を発揮するようになります。
1月31日のビルバオ戦では両チームトップの12回のボール奪取を記録。守備が弱いどころか、チーム内で最も非保持時に頼りになる中盤の選手としてバルサを支えるキーマンとなっています。
ここがカンテラ出身のリキプッチやカルレス・アレニャとの差の1つです。守備ブロックの中に入ってそのタスクを実行する能力がズバ抜けて高いのがペドリが絶対的な存在になれた大きな要因だと考えられます。
最早トップレベルのクラブの中盤には、「パスは上手いけど守備は微妙な選手」や「技術はないけど走れて守れる選手」が生き残れる余地がほとんどないと言っていいでしょう。攻守両面でチームを機能させるオールマイティな選手こそ必要とされているのです。
ラキティッチ的なバランス感覚と、ボールを奪うスキル、そしてイニエスタに例えられる技術の高さが融合したペドリはまさにバルサが求める新世代の中盤なのです。
ポジショニング、ワンタッチ、両足
ペドリが素晴らしいのは技術の高さ。しかし、足下のテクニックは決して彼を語る上で本質を突いた答えではありません。
それこそ足下のセンシティビティやプレー1つ1つの正確性はよく比較されるイニエスタには及びません。イニエスタより上手い選手を僕は知らないので当然なんですけどね。
しかし、ポジショニングやプレーの連続性、運動量はバルサ史上最も偉大なMFに勝るとも劣らないものがあります。ペドリのプレーを支えているのはテクニックではなく、インテリジェンスなのです。
ペドリのプレーは特段難しいことをしているようには見えません。今季90分あたりのタッチ数は72.3回。トリオを組むブスケツは103.4回、フレンキーは88.5回と、彼らと比べると少ないですね。ペドリは素晴らしいテクニックを持っているものの、それを発揮するためにチームのバランスを崩すことを良しとしません。
例えば、左CBがボールを持っている時、ペドリは安易にボールを受けに行かず、相手のDFにとって嫌な位置、中間ポジションに立っていることが多い選手です。
これは簡単なようで意外と難しく,特に技術のある若いプレーヤーはえてしてボールに寄りがちな傾向が見られます。例えば昨季まで所属していたアルトゥール・メロやリキ・プッチはボールを受けに行ってチーム全体の配置のバランスを崩してしまうプレーが散見されます(した)。
ペドリにその傾向は殆ど見られません。彼はむしろ自分がボールを触ることよりも、相手の守備陣形が最も嫌がる場所に立つことを重視していると思います。このような姿勢は偉大なスペインの先輩であるダビド・シルバに通ずるものがありますね。
ペドリの大きな特徴が両足を難なく扱えること。これは真ん中で受ける選手にとって極めて重要な要素で、密集地帯でもあっさりとターンできる技術こそがペドリのライン間でのプレーを支えています。
ライン間でボールを受けた後は、コンビネーションやドリブル突破で崩しを担います。プレースタイルは明らかにチャンスメイカー寄り。特にメッシとの関係性が良く、メッシ、ペドリ、アルバの連携は現在のバルサの崩しで肝となる部分です。
ただ、要求されれば低い位置でゲームをコントロールする役割を負うこともできます。クーマンは得点が欲しい場面で度々ペドリをボランチで起用しますが,その際はテンポの良いプレーでチームにリズムを生み出します。ワンタッチパスは彼の武器の一つです。
ペドリが優れているのはこのようにタスクや状況に応じて、自らのプレーを微調整できること。戦術眼がズバ抜けて高く、今必要とされているプレーを瞬時に遂行するリテラシーが光ります。
「サッカーは技術やフィジカルではなく、頭でするものだ」と言わんばかりのプレーを見せるペドリ。フィジカルは弱くとも攻守両面で機能する万能型MFの彼は新時代のプロトタイプの1人と言えるでしょう。
現時点での課題
バルサデビューシーズン、まだ18歳ということを考えると、ここまでのパフォーマンスは十分以上のものがあり、指摘するほどの欠点はそれほどありません。
気になるのは安易なパスミスが若干多いこと。これは判断のミスというより技術的な側面が強いミスですが、時折相手のカウンターを招いてしまうようなロストが出てしまいます。ここの精度をマックスまで上げることが今後の課題になってくるのかなと思います。勿論、厳しい要求ではあるのですが。
ただ、ペドリはここまでリーガで全試合に出場しており、疲労は溜まりに溜まっているはず。プリメーラ初年度ということを考えると、多少のミスは許容されて然るべきだと思うので、来季以降に期待ですかね。
もう1つ気になるのが、ゴール前でのプレー。ペドリのプレー選択は素晴らしいと先述しましたが、唯一ペドリの中で優先順位が低い選択肢がシュート。撃てるタイミングでパスを選択するシーンは目立ちます。そこもイニエスタっぽくて良いんですけどね笑
他の若い選手はメッシに遠慮して…って感じなんですが、ペドリはパスを出すことが美学みたいな雰囲気があります。。若さに似合わない冷静さがペドリのトレードマークですが、もう少しゴール前では若者らしくガツガツしてていいのかなと思います笑
前半戦のMVP
ここまで見てきたように、ペドリの能力、現時点での貢献度に文句のつけようはありません。
2-8。メッシの退団騒動。フロントの暴走。クラシコ、アトレティコ戦での完敗。新星アンス・ファティの長期離脱。2020年の後半は、バルサファンが塞ぎ込むには十分すぎる要素がありました。
そんな状態のクラブを、ファンの心を支えたのは間違いなくペドリでした。彼がいなければチームはCL圏内の位置まで戻らなかったかもしれません。文句なしの前半戦のチームMVPと言っていいでしょう。
シーズン当初は、批判もありました。特にバルサのファンはカンテラーノを愛する傾向が強いので、アレニャやリキよりもペドリが重用されていることに疑問の声は上がっていました。しかし、今やペドリが絶対的なスタメンであることに疑問を抱くファンは殆どいないでしょう。たった半年で実力でファンを黙らせた彼には脱帽の意しかありません。
この選手が今後10年にわたってバルサとスペイン代表を背負って立つ選手になることには疑いの余地がありません。イニエスタの後継者としてではなく、現代サッカーにより適合したタイプの中盤の選手として、今後の活躍が楽しみです。
最後までお読みいただきありがとうございました。