Hikotaのバルサ考察ブログ

主にFCバルセロナが好きです。他サポの方大歓迎です

【考察】ジュール・クンデに見る未来のCB像

こんにちは。こちらは昨日開催されたセビージャ対バルセロナのレビューに書き切れなかった分の記事です。

www.footballhikota.com

ビジスタではない僕がセビージャの選手を大々的に扱っていいのかという葛藤もありますが、あまりに鮮烈だったため、書かずにはいられませんでした。セビージャの試合を毎試合見ているわけではない他サポの一意見ですので、大目に見ていただければと思います。

※記事内で扱うデータはFBREFより

 

モダンサッカーで求められるCB

『モダンサッカーの教科書』という書籍をご存じでしょうか。こちらは有名雑誌footballistaから刊行されている、現ボローニャコーチであるレナート・バルディ氏と、セリエAを扱うジャーナリストの第一人者である片野道郎氏の対談を収めた超マニアックなサッカー本となっています。対談形式で読みやすいので、興味があれば是非読んでみてください。

モダンサッカーの教科書Ⅲ ポジション進化論 | footballista | フットボリスタ

先日、シリーズ第3弾が発売され、早速僕も読みました。今回のテーマは「ポジション進化論」。簡単に言ってしまうと、現代サッカーでは単なる位置情報であるポジションの枠組みはもう殆ど意味を成さず、ゲームモデルや選手の特性に準じた「タスク」で選手が分類されるようになっており、それに伴い各ポジションで求められる能力が変わりつつある、というのがこの第3弾のアウトラインです。

GK、CB、SB、セントラルMF…と各ポジションで必要とされる能力やタスクの変化を論じていく構成になっているのですが、目を引くのがGKとDFラインに求められるタスクの豊富さ。最早意外でも何でもありませんが、中盤が激しいフィジカルのぶつかり合いとなっている現代サッカーにおいて、従来MFが担ってきたクリエイティブな仕事はよりスペースと時間に余裕がある、DFライン、果てはGKがゲームを構築する役割を担うことが多くなっています。

その中で、書籍の中で取り上げられていたのは「CBのレジスタ化」レジスタという言葉はイタリア語のレジア(演出)という言葉から生まれた造語だそうです。レジスタと言えば、真っ先にアンドレア・ピルロの名前が挙がるように、長短のパスでゲームメイクを担当するMFを指す言葉です。

従来のCBに求められる守備能力に加えて、ボールを正確にコントロールし、精度の高い長短のパスでビルドアップの中心になることを求められる現代のCBの選手達バルサの若きCBロナルド・アラウホも生まれたのが10年前であれば、それほどビルドアップの問題は指摘されなかったかもしれません。現代ではどのチームも組織的なプレッシングをかけてくるので、ただ跳ね返すだけのCBがボールを保持したいトップクラスのチームで居場所を見出すのは難しくなっています。

レジスタの役割を担うCBに該当するのは『モダンサッカーの教科書』でも名前が挙がっていたエメリク・ラポルトマンチェスター・シティ)やマルキーニョス(PSG)、カリドゥ・クリバリ(ナポリ)。さらには僕らリーガファンにはお馴染みのジェラール・ピケセルヒオ・ラモスもこのカテゴリーに入るでしょう。

しかし、リーガ・エスパニョーラには彼らに引けを取らない、いやそれ以上のスーパーモダンなCBがいます。セビージャ所属のジュール・クンデ。昨日の試合でバルセロナの守備を無残に破壊したCBです。今はそれほど世界的な知名度は高くないかもしれませんが、早ければ来季、いや今季のCLでその名を全世界に知らしめることになるでしょう。

 

全てを兼ね備えたCB

先日、僕はこんなツイートをしました。

このツイートの意図としては、「こんなCB世界にもほとんどいないんだから、アラウホのビルドアップに関しては寛容に見守るしかないよね!」ってことだったのですが、ここに挙げた要件をほとんど満たしているのがクンデという選手です。

クンデは2019年夏に名物SDのモンチの眼鏡にかなって2500万€の移籍金でセビージャ加入。19-20シーズン前半戦は絶対的なレギュラーではなかったものの、後半戦に入るとジエゴ・カルロスの隣のポジションを射止め、リーガファンを唸らせるプレーを見せつけました。

特にコロナウイルスによる中断明けのパフォーマンスが目覚ましく、セビージャが優勝したELでは若干不安定だったジエゴ・カルロスとは対照的に安定感のあるプレーを披露。マンチェスター・ユナイテッドインテルのアタッカー陣に全く引けを取らないプレーで優勝に大きく貢献しました。

クンデが素晴らしいCBであると断言できるのは、モダンなCBに求められる要素の前に、1人の守備者として傑出しているからです。

クンデの守備能力

特筆すべきは地上戦の強さフィジカルのレベルが高く、快足アタッカーに走り負けないだけのスピードを有しています。これはセビージャのようにボールを握って主導権を握るチームにとっては、絶対に欠かせない能力です。例えば、ボールを奪われた際、彼のようなCBが背後にいれば、未然にカウンターを防ぐことができるでしょう。ハイライン戦術を支える上で、彼の貢献度は高いものがあります。

また単なるスピードだけのCBではないこともクンデの魅力の1つです。挙げたいのはリトリート時のポジショニングの良さ。不用意に飛び出さず、的確にスペースを埋めるシーンが目立ちます。よくスピード自慢のCBに見られるような隙のあるポジショニングは彼からは感じられません。フェルナンド、ジエゴ・カルロスの3人で構成される中央の守備ユニットはまさに難攻不落。セビージャの好調は守備の安定によって支えられています。

また、特徴的なのはファウルの少なさ。昨季、今季共に1試合当たりのファウル数は1回を切っており、前半戦で貰ったイエローカードは2枚のみになっています。

唯一のネックになり得るのが空中戦。身長が178cmとCBとしては小柄であるため、物理的な大格差に弱いというのはマイナスかもしれません。ただ、身長ほどエアバトルに弱いわけではないのは確かです。

昨季の空中戦勝率は74.5%を記録。これは1000分以上プレーしたリーグ全体の選手の中で4番目の数字になっています。空中戦に弱いどころかリーガ屈指のエアバトラーとして君臨していました。ジャンプ力に優れ、ポジショニングも良いので見た目ほど弱いわけでは決してありません。

ただし、今季の勝率は61.5%まで低下しています。これはある程度狙われるようになったからなのか、本人の問題なのか定かではありません。ただ、アラベスのホセルやオサスナのブディミールのような190cmオーバーの巨漢CFに対して後手を踏んでしまうのはある程度仕方のないところでしょう。

傑出したビルドアップ能力

足下の技術は確かで、短・中距離のパス成功率は95%を超えるなど相方のジエゴ・カルロスと共に後方からの安定したボール出しでビルドアップを円滑に進めます。

気になるのは30ヤード以上のパスの成功率が70%に留まっていること。決して低い数値ではないものの、セルヒオ・ラモスジェラール・ピケといった世界最高峰のビルドアップ能力を誇るCB(共に87%を記録)と比べると見劣りします。ここは今後、彼の伸びしろになってくるかもしれません。

またクンデはの絶対的な足元の技術を活かしたドリブルでの持ち運びが得意な選手です。今季のドリブル成功数19回はリーガのCBでトップの数値です。今季クンデは18試合に出場しているので、ほぼ1試合に1回はドリブルで相手選手を剥がすプレーが見られるということです。その辺のアタッカーよりもクンデの方がドリブルしていますね笑

さらにはボールを持ち運んだ回数もビジャレアルのパウ・トーレスに次いで2位を記録しています。これらのデータから導き出せるのは、彼がボールを持ち、前進することをまったく恐れないパーソナリティを有していること。クンデは若いCBですが、常に冷静にプレーをしており、そのプレーからは自信が窺えます。

特に堅い守備ブロックを築くチームの多いリーガエスパニョーラにおいてCBの持ち運びは非常に重要であり、彼のラン・ウィズ・ザ・ボールがチームのビルドアップに大いに役立っていると言えます。

ここまで見てきたように、プレーの安定感やパーソナリティからリーダーとして大成する可能性も大いに秘めていそうですね。流石に人格面までの情報は集めていないので、そこはセビジスタの方に聞いてみたいところです。

 

 

クンデが新世代の旗手である所以

圧倒的な攻撃力

ここまであれば、クンデはモダンなCBの1人です!で記事は終わりになります。が、クンデが現代サッカーのCBの中でさらに際立つ存在であるのはその攻撃力故です。

昨日のセビージャ対バルセロナ。ポゼッションも互角でシュートの少ない拮抗した展開で試合を動かしたのはクンデの圧倒的な「個」の力でした。

自陣真ん中あたりでボールを受けるとドリブルで前進。一旦前方のスソにボールを当て、リターンをもらうとグリーズマン、ウムティティをかわしてエリア内に侵入。倒れこみながら放ったシュートはファーサイドに突き刺さり、セビージャに先制点をもたらしました。

f:id:hikotafootball:20210212154301p:plain

クンデの得点その1

上図はクンデがボールを受けた瞬間の両チームの配置になります。セビージャはラキティッチがDFラインに落ちる3-1のビルドアップユニットになっており、後方で数的優位を作っている状況のセビージャ。この状況を受けてクンデは前方のスペースへボールを持ち運んで前進します。

f:id:hikotafootball:20210212155018p:plain

クンデ得点その2

ハーフライン手前まで前進したクンデは、右ハーフスペースで引いてきたスソに縦パスを付けると、ビダルグリーズマンを引っ張ってできた右斜め前のスペースにランニング。スソはターンして時間を作ると、クンデにリターンを返します。

f:id:hikotafootball:20210212160029p:plain

クンデ得点その3

リターンを受けたクンデは再びドリブルを開始。この時点でバルサの守備陣形が崩れに崩れまくっていることは言うまでもありません。クンデはこのタイミングでグリーズマンをかわすのですが、グリーズマンからすると大外のビダルをケアする必要もあり、対応が極めて難しい状況でした。

スピードに乗ったクンデはウムティティも華麗にかわすと、エリア内に侵入してシュートを放ちます。この時カバーするのはミンゲサのはずですが、ボールに近寄らないエンネシリを警戒して絞り切れず、クンデにフリーでシュートを撃たせる結果になりました。

もしかすると、このゴールを見た人の中で何人かは「たまたま上手くいったに過ぎない」や「CBがドリブルで攻めあがるのはリスクがありすぎる」という感想を抱いたかもしれません。

しかし、このゴールはたまたまではありませんし、きちんとリスクヘッジもされています。クンデのオーバーラップはしっかりと戦術の中に組み込まれているのです

クンデのゴールの一連の動きはクンデの個人技だけではなく、しっかりとチームの得点を奪うためのムーブメントが詰まっています。まずは後方ユニット。ラキティッチジョルダンジエゴ・カルロスがクンデの後方におり、リスクマネジメントが行われていることが確認できます

そしてスソ、アレイシュ・ビダル、フェルナンド、エンネシリはそれぞれ目立たないながらもクンデのドリブルコースを演出するような位置取り、動き方をしており、チームとしてクンデの攻撃参加を促すような意図があったと思われます。

クンデのオーバーラップが際立ったのはこの試合だけではありません。例えば、1月に行われたアトレティコとの1戦。先制され、アトレティコの堅守に苦しんだセビージャの攻撃の要になったのがこのクンデでした。積極的に敵陣に侵入し、ニアゾーンへの走り込みアトレティコの守備陣を脅かすなど、CBらしからぬプレーで攻撃を活性化させました。

www.footballhikota.com

このようにビルドアップだけでなく、積極的なオーバーラップやドリブルで「崩し」の局面に関われるのがクンデのCBとして傑出している部分です。勿論、CBで上がっていく選手も少なくはありませんが、その大半はクロスターゲットとしての役割に留まります。クンデのように「突破できる」CBは本当に稀だと思います。

近未来のCB

リスクマネジメントがしっかりしていれば、CBのオーバーラップは非常に有効です。なぜなら、止めようがないからです。

オーバーラップと言えば専らSBやWBの仕事ですが、彼らのマークにはサイドハーフやウイングがつきます。近年はサイドのプレーヤーの守備意識が格段に上がり、技術と突破力のある選手が自陣のゴールライン付近まで戻ってSBをケアするシーンも珍しくありません。あのウスマン・デンベレさえもクーマン就任後は意欲的に守備に取り組んでいます。

では、CBが攻めあがってくるとして、そのマークは誰が付くことになるでしょうか。

ポジション的にはCFになります。しかし、CFがCBを追いかけて自陣深くまで戻るのは現実的ではありません。CFの守備力も近年は求められてきていますが、それはあくまでプレッシングやカバーシャドウの話。自陣深くまで下がって、そこから出て行く上下動を繰り返せる選手はそう多くはありません。

何よりCFがボール非保持時の局面で自陣に引きすぎるとカウンターが死んでしまいます。先ほど紹介した場面では、クンデの対面はメッシだったわけですが、メッシでなくともクンデについて下がるのは難しかったのではないでしょうか。

クンデのようなスピードで技術を持ち合わせたCBがフリーで上がってくると守備側の選手たちは対応に苦しみます。単純に「誰がプレスにいく?」状態になりますし、スピードに乗ったドリブルやオーバーラップに対応し辛いのは当然です。ボランチの選手が出て行くのであれば、マーク担当がいるので対応できますが、CBだとそうはいきません。

中盤がハードな戦場となり、SBの攻め上がりもきっちりケアされる現代サッカーにおいて、CBの上がりは「戦術兵器」になり得ます。並のCBの攻め上がりならそれほど怖くはありませんが、クンデレベルのクオリティを持った選手であれば、DFは対応に苦慮を強いられるでしょう。

現代サッカーでもクンデのような選手はほとんどいないでしょう。ですが、10年後にはGKのプレーエリアが10メートル上がって今のCBが務めているようなボール出しに加わり、CBが積極的に攻撃参加をして相手の守備陣形に風穴を空けるのがスタンダードになるやもしれません。その時に先駆者の1人としてジュール・クンデの名前が挙がる、なんて妄想をしてしまいます。

 

あとがき

昨夏、クンデの元には、ペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティからオファーがあったそうです。セビージャが設定した契約解除金は8000万€と言われていますが、来夏は間違いなくこの金額を払ってでも欲しい、と手を上げるビッグクラブが殺到するでしょう。特にボールを保持して主導権を握りたいチームからすると喉から手が出るほど欲しい存在です。

バルセロナも欲しい気持ちは山々ですが、周知の通り破産寸前のクラブに彼レベルの選手を獲得できる余裕などないでしょう笑。レアル・マドリーが獲得に動かなければ、来季はプレミアにいるのではないでしょうか。個人的にはもう少しリーガで見たい気持ちがあるので、セビージャ残留が一番嬉しいんですけどね。

それにしてもセビージャのSDのモンチはあまりに優秀ですね。フランスで2年間プレーしただけだった20歳に2500万€をつぎ込んだ時は流石に・・みたいな反応だったようですが、その移籍金は決して高いものではありませんでした。Transfermarketでのクンデの市場価値は5000万€まで跳ね上がっており、恐らく売却する際はさらに高い価格がつくはずです。

バルサを応援している僕が今回クンデを扱ったのは、昨日の試合の鮮烈なプレーが動機ではあります。ほぼ勢いですね笑。ただ、彼が誰もが認める世界最高のCBの1人になることに疑いはありません。リーガエスパニョーラを愛するファンの1人としてクンデのこれからの飛躍を願うばかりです。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございます。