こんにちは。今回はコウチーニョについて。実は1度コウチーニョについては記事を書いていますが、今回は別の切り口で書いてみようと思います。
↑こちらが過去記事です。本記事とも被るところはありますが是非。
■なぜコウチーニョが選ばれたのか?
2017年冬、フィリペ・コウチーニョはバルセロナのクラブ史上最高額の移籍金でリバプールから加入してきました。圧倒的なボールテクニックと、積極果敢なドリブルや強烈なミドルシュートを武器にプレミアを席巻したコウチーニョ。何を隠そう、僕自身バルサの選手以外で好きな選手の1人でした。
しかし、個人的にはバルサのコウチーニョ獲得には当初から反対していました。獲得当時、僕はTwitterもブログもやっていなかったため、何も証拠はありませんが、決して今シーズンの不調を念頭に置いて言っているわけではありませんよ笑。
むしろ今シーズンここまで活躍しないとまでは思っていませんでした。フィットしないまでもそこそこの活躍は見せるだろうと考えていたので、今シーズンの公式戦54試合で11ゴール5アシストという成績には正直驚きを隠せませんでした。クラブ史上最高額ですからね。
ただ、今シーズン20ゴール10アシストくらいの成績を残していたとしても、個人的には疑問が拭えなかったと思います。一体バルサはなぜコウチーニョを欲したのでしょうか。
■「イニエスタの後継者」というピント外れの触れ込み
獲得当初、「イニエスタの後継者」として現地メディアはコウチーニョを持ち上げました。別にバルサがクラブとして「コウチーニョはイニエスタの後継者です」とアナウンスしたわけではないので、定かではありませんが、コウチーニョ獲得の数ヶ月後にイニエスタは退団を発表したわけですから、少なくともフロントはそう考えていた可能性は大いにあります。
そして個人的にはこの「イニエスタの後継者」という文言に「???」と首を傾げていました。これはイニエスタとコウチーニョじゃ格が違うということではなく(そもそもイニエスタに並ぶ選手なんていないというのは置いておいて)、単純にタイプが全然違う選手であるからです。
中盤の選手をカテゴライズするのは非常に難しいですが、イニエスタはオールラウンダータイプで、コウチーニョは背番号10タイプだとすれば伝わりやすいでしょうか。イニエスタはバルサの中盤に求められる要素を全て詰め込んだような選手でした。彼の魅力を全て伝えようとしたら3記事分くらいになってしまうので掻い摘んで話すと、イニエスタは「狭いスペースで息ができる」選手です。
ボールを保持する機会が多いバルセロナは相手によくスペースを消される守備をされます。「ブロックを作る」ってやつですね。例えば上の図のように相手が4-4-2でリトリートしてきた場合。イニエスタは相手の右SB・右CB・右SH・右CHの丁度中間にポジションを取っています。スペースはありませんが、このような状況で崩しを担えるのがイニエスタの真骨頂です。
ラキティッチからイニエスタにパスが入ったと仮定します。当然こんなところでボールを持たれたくはありませんから囲い込んでいる4人はイニエスタとの距離を詰めていきます。
そうなるとどうなるのか。上の図をご覧ください。DFがイニエスタに気を取られたせいでスアレスとアルバが自由になっています。こうなれば4-4-2ブロックを攻略するのは簡単そうですよね。
逆に相手DFがスアレスやアルバへのパスを警戒すれば、すかさずドリブルでペナルティーエリア内に侵入できるのもイニエスタの大きな強みです。このように狭いスペースであっても相手DFに常に「二者択一」を迫ることができるのがイニエスタの凄みなのです。これは単に技術の問題ではなく、ポジショニング、身体の向き、状況認知力、そして判断の速さに裏打ちされるものでもあります。
一方のコウチーニョ、あまり言われていませんが彼は実はこういったプレーは苦手なのでは?と個人的には考えています。たまにリバプール時代のコウチーニョのスーパープレー集がTwitterで流れてきますが、そのほとんどオープンスペースでのプレーなんですよね。スペースがある状況で相手を手玉に取るのは非常に上手い選手です。
グアルディオラやエメリといった戦術家の到来で必ずしもそうではなくなりつつありますが、プレミアリーグは本来オープンな展開が醍醐味の1つです。両チームが素早い攻撃を仕掛け合う展開では得てして中盤にスペースが出来がちです。スピードはとんでもなく速いので技術はかなりのレベルで要求されますが、密集地帯というのはできにくいかと思います。
コウチーニョの密集地帯でのプレーはどちらかと言えば不得手に映ります。非常にテクニックに優れた選手でありますが、イニエスタやシルバといった選手と比べると、よく言えば「ダイナミック」、悪く言えば「繊細さ」に欠けるといったところでしょうか。密集に突っ込んでプレーを失敗する姿は頻繁に見られます。
コウチーニョはよく「ボールをこねる傾向がある」と批判を受けます。密集でボールをこねても詰められるだけで何のいいこともありませんからね。リバプール時代のようなプレースタイルではバルサの中盤でプレーすることはできません。同じポジションでも両チームの戦い方は全く違いますから。アルトゥールも先日こぼしていましたが、バルサの中盤はかなり制約が多いですからね。
ボールロストが多いのも看過できない問題です。高い位置で仕掛けるのは全く問題ありませんが、低い位置でのボールロストはチームからすると命とり。現に今シーズンコウチーニョのボールロストからカウンターを食らった機会は少なくありません。中盤で起用するにはあまりに危険すぎます。
ちなみに今シーズンコウチーニョが中盤で起用された際のボールロストの回数は90分あたり1.7回。アルトゥールが0.6回、ラキティッチが0.7回であることを考えると多めですよね。リバプールでのラストシーズンの半年間で1.8回ですからあまりプレーは変わっていないのかもしれません、
(データは「WhoScored」より)
■致命的な不器用さとスピード不足
というわけで、個人的にはコウチーニョを中盤で使う選択肢はありませんでした。残る選択肢は、実際の主戦場となった左ウイングです。ただ、ウイングには半年前にウスマン・デンベレを高値で獲得したばかり。右ウイングはメッシの聖域ですから、バルサは結果的にわずか半年で2人の左ウイングに合計250億円程度を費やしたのです。あまりにナンセンスな補強戦略と言わざるを得ませんね。
僕としては、当初から左ウイングで使うしかないと予測していただけに、獲得には大反対だったわけです。ただ、左ウイングではある程度の実績を残すと思っていただけに、今シーズンここまで上手くいかないのは完全な想定外でした。
突然ですが、皆さんは1度に2つのことを同時にやることってできますか?僕、実はこれが大の苦手で笑。何かに没頭するとその間は何も手につかないっていうタイプです。僕と同じタイプと形容するにはあまりに失礼ですが、コウチーニョもピッチ上ではこのタイプなのかなって勝手に思っています。
ここでいう2つのことを同時にやるというのは「メッシを立てつつ、自分も活きる」という作業のことです。この作業こそネイマールやデンベレにできて、コウチーニョが苦手な分野なのです。真面目な性格が災いして、どちらもバランスよくこなすということができていません。プレーが左サイドからのカットイン一辺倒になってしまうのもこのあたりの性質が原因でしょう。
また、コウチーニョはアタッカーとしてはスピードが不足していますよね。ここもデンベレと比べて見劣りするところではあります。単騎で2人も3人も交わしていけるタイプではないので、使い勝手は非常に悪くなっています。
おそらくコウチーニョ中心のチームにすればバルサでもそれなりに活躍できると思います。しかし、現実的にバルサでは創出した時間もスペースも全てメッシのためにあります。コウチーニョが王様になりたいのであれば、メッシに匹敵する結果を残さなければなりません。現に、リーガ第35節のレバンテ戦はメッシがスタメン落ち。コウチーニョは攻撃の中心として躍動し、前半だけで6本ものシュートを浴びせたものの、結果は0ゴール0アシスト。コウチーニョのやりたいプレーが優先されることはこの先も恐らくないでしょう…。
■拭えないフロントへの不信感
まだコウチーニョが退団すると決まったわけではありませんので、結論づけるのは早いですが、少なくともこの1年半を振り返るとコウチーニョ獲得は成功とは程遠いものとなってしまいました。かかったコストと期待値を考えると多くのファンが失望したと思いますし、何より本人にとって辛い結果となってしまいました。
改めて、何故バルサはコウチーニョを欲したのでしょうか。1億2,000万€もの大金を費して冬に獲得する必要はどこにあったのでしょうか。これはコウチーニョの失敗ではありません。あまりに行き当たりばったりなフロントの補強策が招いた悲劇です。
勿論、全てフロントのせいではありません。能力を最大限に引き出せないバルベルデにも、コウチーニョ自身にも責任は大いにあります。しかし、この件に限らず、現フロント陣はあまりに無策な戦略が多すぎはしないでしょうか?今シーズンのムリージョ&ボアテングの獲得なんてまさに現場無視の補強でしたし。
あまりフロント内部の事情や政治のことに対して知識がないので、これ以上言及することはできませんが、引き続きフロントには厳しい視線を送っていこうと思っています。
■コウチーニョの去就は?
当ブログとしては、ここまでコウチーニョのことを応援してきました。獲得に反対だったとはいえ、好きな選手ですし来たからには活躍してほしいと願っていました。前回の記事で書きましたが、個人的にはコウチーニョがバルサのスタイルに合わせてプレースタイル(マインド)を変えてくれることを望んでいました。しかし、今シーズン不振に苦しみ、サポーターからブーイングまで受ける彼の姿は非常に痛々しいものがありました。
残念ながらコウチーニョの未来はもうバルサにはないのかもしれません。来シーズンは中盤にフレンキ―・デ・ヨングの獲得が既に決まっており、アトレティコからの退団を表明したアントワーヌ・グリーズマンの獲得が間近と報道されています。今シーズン以上にコウチーニョにとっては厳しい状況になるでしょう。
しかし放出も簡単な決断ではありません。バルサはコウチーニョ獲得に1億2000万€+出来高(推定)という大金を費やしています。バルサとしてはできるだけ高値で売りたいところでしょうが、シーズン後半のパフォーマンスを考えると半額の6000万€でも買い手はつかない可能性があります。買い取りオプション付きのレンタルは選択肢としてはありかもしれませんが…。
移籍先としてはチェルシーがレアル・マドリ―に移籍したアザールの後釜として獲得を検討していると報道されていますが、どこまで信憑性があるものなのか分からないところではあります。そもそも補強禁止処分はどうなっているのでしょうか…笑。コパ・アメリカで活躍すれば市場価値は上がりますが、商売下手のバルサのフロントが高値で売り込むことは果たしてできるでしょうか。
個人的には現状、残留60%・放出40%くらいかなと考えています。「売らない」というより「売れない」ですが。そしてもし残留することになれば、コウチーニョにはある種の覚悟が必要になってきます。時代が違えば、コウチーニョはバルサで大スターになっていたかもしれません。それだけ今のメッシ中心のバルサでプレーすることは困難なものになっています。
いずれにせよ今夏、コウチーニョがどのような決断を下すのか注目していきたいところです。
最後までお読みいただきありがとうございました。